高山が作家として更に飛躍することを願い創作活動を支援したい!~エッセイ「ガーターベルトの女」の作品化を目指して【275】
妄想家・夢想家無名居士の夢物語の記録です
無名作家高山のエッセイ「ガーターベルトの女」の
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【随筆】石田ゆり子頑張って 3/9
高山の作品から
随筆「同い年の男と離婚と」
2017/05/25
同い年の人間がトンネル工事の仕事で一緒になるのは、意外に少ない。
たまには、有るがこの男ほど仲良くなったのは居ない。
トンネル工事は、遠くに行くと宿舎に入るために色々な人間と一緒になる。
男同士だから友情が生まれるかと言えば、意外に男だけの世界での嫉妬や足の引っ張りあいがあるのだ。
男の世界だからさっぱりしてるだろうと思われるが意外にそうでも無くて、女の世界のよりも醜い争いをしたりする事も多々ある。
僕は数人、二度と会いたくないと言う人間もいる。
徒党を組んだり、男同士の関係はそれほど男らしくないものだった。
同じ九州出身だが、村本という男は長崎の出身だった。
トンネル関係で多いのは、昔は大分県が一番多く、次が宮崎県だったと思う。
福岡、熊本、佐賀、鹿児島と居たが、何故か長崎県は少なかった。
それも佐世保の出身だったのには驚いた。
大体トンネルの仕事に就くのは、その県の中でも有名な街では無かった。
結局、仕事が少ないからトンネルの仕事を選ぶという感じだった。
大分県のある街は、昔はトンネルの世界で有名で九州と関東や、北の方に上がれば九州と言えばその街か?と言われる程だった。
しかし、その街は人口五万から六万程の小さな街だった。
僕の父も母もこの街に隣接する所の出身で、今では合併されてこの街になっている。
正確にはこの街に隣接する父や母の街を総称して、九州と言えば○○かと言われていたのだ。
この街に隣接する小さな街はほとんど漁師町で、ここの出身者が何故か多かった。
大分県と言えば大分市や別府市と有るが、ここの出身はほとんど居なかった。
結局、漁師をするかトンネルを掘るかという伝統のようなものが出来たのだと思う。
漁師町だから農業はそれほど発達してなかったし、皆気が荒く根性が据わっている部分が有ったのがトンネルに有ったのかも知れない。
しかし、関東や北に行くと、○○の出身だと言えば時に怯えられた。
やりっ放しの○○とも言われていた。
掘る能力は高いが、後の始末をしなくてどんどん前に行くからだ。
これはトンネル仕事の形態を考えたら分かるが、掘ったら掘っただけの金額がもらえたからどんどん前に行くのだ。大抵二つの班に別れて昼勤夜勤を交互にやるために、後始末はどちらかの班にかかってきていた。
掘るばかりでは、トンネルはやれない為に片方の班が丁寧に後始末した。
僕の親の出身の○○は丁寧な仕事より、自分達がどんどん掘って自分達が請け負いの金額を沢山貰えたら良いと思うような傾向があった為に、怖がられたり嫌われたりもしたのだ。
○○の後にはペンペン草も生えない、等と揶揄する人も多かった。
しかし、掘る技術に関してとガッツはあった。
その同い年の村本と出会ったのがもう二十年近く前で、沖縄で父の会社が倒産した後に彼は義理の叔父さんと来た。
新しい作業員として二人は来たが、最初見た時はダサい眼鏡を掛けて今時角刈りにして、やや細かった為にあんなので大丈夫かと思った。
義理の叔父さんは四十代の半ばで、最初は威勢が良かったが大した坑夫では無かった。
口だけは立つと言うタイプだった。
村本と僕が最初に話した時に僕の住んでる当時住んでた街を言うと、○○かあと少し嫌な顔をした。
村本は長崎出身だがずっと北の方で仕事をしていた為に、北のほうで色々言われたのを僕に話した。
九州出身と言うと○○かと言われて時に嫌がられたから、長崎だと言うようにしたと言った。
僕は、当時は北での仕事はわりと少なかったからそうなのかと驚いた。
村本は、見かけによらず仕事が出来たし真面目だった。
人が見てない所でもコツコツと仕事をするタイプで、沖縄の現場は何人も人が変わったが、所長とあれは意外な拾い物だなと話したのを覚えている。
しかし、沖縄の現場は山の状態が悪くなり一時中断になった。
再開の目処ははっきりしなかった。
僕は九州に戻り、違う現場に一時的に入り沖縄の再開を待った。
数ヶ月後に再開すると、村本とその叔父さんも来た。
この頃から村本と本格的に仲良くなった。
お互い中に入って掘る仕事をしたが、圧倒的に村本の方が上手かった。
それでも僕はコンクリートを練る機械もやってたから、走り回るように仕事をした。
それに僕は親父の会社に居た為に作業員としては、高校卒業後に直ぐに作業員になった村本に負けて当たり前だったし、彼は器用だった。
この時から村本は、僕の動く姿と事務の手伝いもしているのを見て仲良くなった。
村本は職人肌でトンネルの作業に関しては器用だったが人を使ったり事務をする器用さは無かった。
ある意味、二人でやればお互いの欠点を補える所があったのだ。
僕は人を使ったり事務は得意な方だった、が職人肌では無かったからだ。
何度か飲みに行くようになって橋本は、最初僕を見た時坊主で休憩室で正座して、所長のいうことをハイハイと大きな声で答えてるのに驚いて、なんて真面目なんだと思ったらしい。
坊主にしていたのは、父の会社が倒産して一時的に逃げるために、いつ風呂に入れるか分からないから仕方なくしていた。
正座は僕の癖で、特に真面目でしている訳では無かった。
所長との会話は、付き合いも長かったから何が言いたいのか分かっていたから、きちんと答えていただけだった。
○○出身でもこんなに真面目なのがいるのか、と思ったらしい。
そのあとに段々僕の事が分かると、仕事は真面目だが短気なのと、プライベートはいい加減だと知ったようだ。
村本のお陰で、何度か腹が立って文句を言いに行きかけて止められた。
村本は、滅多に怒らず黙々と仕事をするタイプだったが、僕の前ではふざけたりするようになった。
、
お互い同い年で、気の会う奴に今まで会ったことが無かったのだ。
当時僕らは三十一歳か三十二歳で若かった。
村本は早くに結婚していて、既に長崎にかなり高いマンションを買っていた。
子供も小さい女の子が二人いた。
堅実な男で僕とはプライベートは正反対だったが、僕のプライベートの行動を楽しんでるようだった。
その後、沖縄が終わると僕の地元とも言える何度も出る、○○での仕事に来た。
村本は、皆が○○はと言うので凄く大きな街で独特の雰囲気が有るのだろうと勘違いしていた。
小さい街で、今ではすっかり寂れてるのに驚いていた。
その後も村本とは連続で仕事をした。
僕が新しい会社に入って、おじさんについて歩いていた時期だ。
おじさんは必ず村本を呼んだ。
おじさんは村本を高く評価していて、あの子は見てなくてもしっかり仕事をすると言っていた。
村本の義理の叔父さんもついてきたが評価はどんどん下がったし、橋本も本音を言えば嫌がっていた。
僕は何かのきっかけから村本の奥さんと話すようになり、仕事が少し空いた時期は良く向こうから電話があった。
奥さんとは関東の何処かで知り合って、当時十七歳か十八歳の奥さんを二十代を少し過ぎた橋本が惚れて貰ったらしい。
当時は法律でも早い結婚が許されていた。
奥さんは、村本は真面目だが物足りないような事を言った。
村本は、奥さん以外は女を知らないとも言った。
僕は少し奥さんと距離を取らないと村本との友情が壊れると思い、電話に出る回数を減らした。
結局村本には、奥さんと話したが細かいことは言わなかった。
奥さんは所謂元ヤンキーのようで、実家も昔はヤクザ関係の家のようだった。
一度だけ、奥さんと村本が写った年賀状を貰った。
奥さんは太っていて、決して美人とは言えなかった。
その後、ある現場で奥さんがサラ金から多額の借金をしてる事が分かった。
村本は困って僕に言ってきたので、僕は所長だったおじさんに相談した。
おじさんは村本と話し合い、二百万円程会社から借りて一気に清算させた。
金額ははっきり覚えてないがかなりの額だった、それもどうやら奥さんの遊びでたまってしまったようだった。
こういう仕事をしてるとあちこちいくために、家の事は奥さんがしっかり守ってくれないと困るのだが、良くある事だった。
村本は、そのお金を毎月の給料できちんと支払った。
それに村本はそれほど遊ぶタイプでは無くて、充分な金額を家に送っていたのだが。
確か三十五歳の時に、一時的に離れていた橋本と再び沖縄で仕事をした。
僕らは再会を喜んだが、村本は離婚して間もなかった。
噂では聞いていたが再び奥さんが借金を作ったらしくて、それを責めたら奥さんは子供を置いて実家に帰り、離婚したらしかった。
沖縄では最初、宿舎が出来るまでコンテナハウスというかトレーラーハウスと言うか、独特の所に泊まった。
村本と僕は、六畳程の所に二人で一緒に入った。
村本の義理の叔父さんも来ていた、一緒は嫌だと言っていた。
六畳に、別にトイレとシャワーがついて居たが狭かった。
一ヶ月程泊まったが、他の連中は嫌がっていたが僕と橋本は上手くやっいた。
仕事から戻るとビールを軽く飲んで、島酒を二人で飲みながらテレビを見た。
深酒をすることは無くて、十一時頃にはお互い寝た。
しかし、ある雨の日に寝ていると村本がうなされていた。
僕は大丈夫かと起こすと、橋本はむくりと起きて何か言いながら僕に向かってきた。
お前が悪いんだ、と泣いてるようだった。
これは夢遊病のような感じで、僕は思い切り頬を叩いてしっかりしろと言ったが止まらなかった。
僕は、慌てて雨の中を外に出た。
村本を傷つけたくは無かったし、二十分ほど外で何とか雨宿りしながら待ってそっと部屋に戻った。
村本は変な格好で寝ていた。
次の日起きて覚えてるかと言うと、え!?となった。
離婚したショックから立ち直れて無かったのだ。
子供は親に預けてるようだが、なるべく毎日ケータイで電話していた。
新しい宿舎が出来ると、村本は残念がった。
一人だと寂しかったのだと今では思う。
しかし、宿舎の一人部屋も僕の隣に来た。
そして、薄い合板の壁を開けて自由に出入り出来るようにしよう、等と真剣に言ってきた。
僕は、そりゃ嫌だよと断った。
しかし、何度か奥さんとケータイで話してるのが聞こえた。
お前が悪いんだろうと言いながらも、時には泣いているのが聞こえた。
そういう時は、しばらくして僕の部屋にビールを持ってきて二人で飲んだ。
その寂しさや複雑な感情は、僕にも何となくは分かった。
だけど、僕は結婚もしてないし子供も居ないので的確なアドバイス等できなかったので、新しい女を沖縄で見つけようと言った。
二人で毎週飲みに出掛けたが、村本には彼女は出来なかった。
女を知らなすぎたからだと思う。
僕は、何度か村本の為に女の子を口説けるように昔の女友達に頼んだりしたが、彼は不器用だった。
そういう村本に、時には僕は苛ついた。
僕は飲み屋に出てる大学生と付き合ったが、一時的な遊びだった。
村本は僕に彼女が出来たのを悔しがるというより、僕が村本を相手する時間が減ったのを寂しがった。
仕事以外は服とか荷物は奥さんが用意していたし、服などは奥さんが買っていたようだった。
最初の沖縄でも後の沖縄でもその服を持ってきていたが、明らかに時代遅れだった。
一度だけ二人で服を買いに言ったが、村本のそういう部分の無知ぶりは若い頃から奥さんに任せきりのせいのようだった。
僕には分からないが当時の村本は、奥さんに未練があったしある意味途方にくれていた。
その後、完全に現場が一緒になることが減った。
村本はまた北の方に上がったが、僕は西日本中心で動いたから仕方ない事だった。
四十代に入って直ぐ、少しだけうちの会社の手伝いに来てて会った。
相変わらず良く働いたが、ここで班長してくれたら俺も助かるが、と言うとそういうのは嫌だと言った。
そして数ヶ月いて、また北に行った。
僕は今の会社の社員になり、村本は相変わらず作業員でお互い立場が変わったが、時々電話を入れた。
会社に誘った事もあったが、社員は出来ないと断られた。
たまたま、数週間前に村本から電話があった。
熊本で仕事してて最近良くお前の会社の事を聞くよ、と言われた。
僕は、熊本は何時までかと聞くと七月の半ば位まで、と答えて来た。
八月から小倉で大きな現場をうちでやるから来てくれないか、と頼んだ。
村本はそれはタイミング良いな、と言ってOKしてきた。
こないだ、うちの近くまで来てるから会えないかと言われて会った。
少し老けては居たが元気そうだった。
しかし、スラックスを履いてきちんとしていた。
村本は僕に、変わらないなと言った。
しかし、村本も僕と同じように少し老けたと思っただろう。
その時僕は、三十五歳の時に二人で良く行った沖縄の古着屋で買ったアロハを着ていたが、村本から見たら相変わらずなのだろう。
そのアロハを見て、村本が嬉しそうな顔をした。
だが、僕が車に乗る時に眼鏡を掛けたのに驚いていた。
僕は老眼と視力が少し落ちてるんだと言うと、お互い歳はとるなと笑った。
村本の子供は一人は結婚して、一人は短大だと明るく言ったのでほっとした。
もう奥さんとは何年も連絡を取ってないと言ったが、子供には自由にさせてると言った。
本人は飲みには行くが居酒屋が多いと言って、最近は釣りをしてると嬉しそうな顔した。
昔は釣りなどしていなかったが、この数年で覚えたようだ。
あの離婚直後から比べたらずいぶん落ち着いていた。
僕に結婚はしないのかと笑いながら聞いたので、あんたのように苦労したくないよと笑いながら答えた。
もう数年掘る方の作業員をしたら体力的にしんどいから、得意な機械をいじりたいからトンネルの機械屋になりたい、と言っていた。
次はいい加減班長やれよと言うと、それは出来ないと笑いながら答えた。
お互い歳は取ったし立場は変わったが、三十代で二人で頑張ったのを思い出した。
当然変わった部分もお互い有るが、根本は変わっていなかった。
一番良い時期に出会えて良かったと思う。
同じ時代を二人で頑張ってきたと思うと、まだまだ頑張らないとなとも思うのだ。
僕には想像しか出来ない辛い離婚を乗り越えた村本を見て、嬉しかった。
多分村本はその後も彼女を作ったと聞いてないので生涯女は元奥さんだけだと思うが、それでも良いのではと今の僕は思えるようになっている。
彼がそれで幸せなら、そんな事は重要ではないと思えるのだ。
おわり
高山の作品紹介
次回は随筆「権力に立ち向かうって事は」
「ガーターベルトの女」~映画化のために
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「ガーターベルトの女 外伝」(フィクション編) 1
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