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#072「Think Different ,Later(やってから考える)」の発想転換を。

日本の停滞はどこから来るのか視点を変える時期ではないのか。先ずは大学の改革を始めとして、企業との関わりについて、最近の動向を拾い読みしていたら、丁度、東工大と医科歯科大の統合の話と富士通のDXイノベーションの話が年金シニアの好奇心の目にとまった。

1)高口康太 (フリー ジャーナリスト)
「過度にオリジナリティにこだわり、頭を抱えない。クイックに、素早く取り組み、ライバルの長所はすぐ学ぶ。
そんなあり方を、「Think Different(異端であれ)」ではなく、「Think Different, Later(やってから考える)」と表現しました。
ダイナミックに成長するアジアから、示唆にあふれたストーリーを現地投資家、アナリストらがお伝えします。
「事業化」こそ国家的課題
──確かにそういうダイナミックな取り組みは日本では見られないですね。日本企業には難しいのではという悲観的な気持ちにもなりますが。

世界経済フォーラム(WEF)のリポート「世界競争力報告2020」(GCR)によると、日本のイノベーション能力は世界21位。10年前には世界一と評価されていたことを考えると、ガタ落ちしているのは事実です。
ただ詳細を見ると、大学・研究機関の質、産学連携、先端技術製品の政府調達といった分野が足を引っ張っていることがわかります。

企業の研究開発支出、科学者・技術者の有用性、人口あたりの国際特許出願数はいずれも上位です。つまり、企業、とりわけ大企業のポテンシャルは依然として強力です。
ただ、その実力を発揮できないでいる。いまだに世界トップレベルの技術やそれを生み出す研究者、産業従事者がいるにもかかわらず、「事業化」できてないというのが、国家的な課題だと捉えています。
今世界のトレンドは、これまでの単なるIT・ソフトウェアのイノベーションから、レガシー技術・産業のイノベーションにシフトしており、産業革命時代と同様に日本の力をグローバルに発揮すべき時が来ます。
真のオープンイノベーションによって新たに進むべき方向を見つけることさえできれば、日本の大企業にはまだまだ多くの発展のチャンスがあります。」

2)東工大と医科歯科大の統合へ。
「志の共有」が決め手に
「最大の統合効果を得るために、1法人1大学を選択することにした」
医科歯科大の田中学長は、
当初の選択肢にはあった法人のみの統合ではなく、大学自体を統合するという決断に至った理由として、一から新大学を構築することでより大きな改革が可能になることなどを挙げた。キャンパスが分散しているため、大学が分かれたままだと「何も変わらず、改革も進まない」(田中学長)という思いもあったという。
医科歯科大は付属病院を有する医療系大学、東工大は技術者の養成学校から始まった理工系大学だ。
東工大の益学長は
「新産業創出こそが我々のルーツだが、(医科歯科大が)新たな産業、新たな社会を作るという同じ志を持っていることを知った」
と、実学や社会実装を重視する大学同士、理念を共通できたことが合意の決め手になったことを強調した。

目指すはコンバージェンス・サイエンス
新大学が目指すのは、どんな領域なのか。発表の中で挙がったキーワードが「コンバージェンス(収斂)・サイエンス」だ。
異なる学問領域を融合させ、収斂させることで新しい学問領域を生み出し、社会課題を発見・解決していくアプローチだ。例えば20世期は物理学と工学の融合、21世紀は工学と生物学の融合が進み、画期的な成果が生まれた。
新大学では、理工学、医師学、情報学、人文社会科学を融合させた総合知に基づく「コンバージェンス3.0」によって、個々のウェルビーイング(健康で幸福な状態)や脱炭素社会の実現など、幅広い課題の解決に挑戦するという。

益学長は
「1足す1が2ではなく、3にでも4にでもなるのがコンバージェンス・サイエンス。東工大と医科歯科大が強みを生かし、おのおのの尖った部分をブリッジングして生み出す新たな分野だ」
と説明した。
統合により大学の社会的価値が高まることで、外部資金の流入が増えることへの期待もあるという。2人の学長の言葉には時折、危機感もにじんだ。
THE世界大学ランキングで200位以内に入っている日本の大学は東京大学と京都大学のみ。東工大と医科歯科大も、国内での順位は上位だが、世界ではそれぞれ301〜350位と501〜600位だ。両校とも慢性的な人手不足で、研究者が疲弊しているという実態もある。
田中学長は
「勝ち組同士と言われることもあるが、世界的には全然勝ち組ではない。ただ一緒になるだけでは無理だが、いろんな仕組みを考え、なるべく早く国際的に卓越したレベルを目指したい」
と語った。
両校とも学内の説明会では、反発や懸念、不安の声も上がったという。「リスクを取った挑戦」が功を奏すのか。多くの大学関係者が固唾を飲んで見守っている。」


3)そこで益一哉東工大学長と、
東工大OBの時田隆仁富士通社長に、理系改革の「今」を聞いた。

新産業を生み出すのが使命だ
──医科歯科大と統合会見で、「日本経済停滞の一因は、東工大にあるのではないか」といった趣旨の発言をしました。
すでに語り尽くされていますが、過去30年間、日本のGDPはほとんど伸びていません。私自身は半導体分野の研究をやってきました。(1980年代に日本の半導体産業は世界トップになったものの)過去30年間、日本の半導体産業は、あまり芳しくない状況です。では、半導体を含めた製造業が伸びていないから日本経済が停滞したのかというと、そうとも言えません。アメリカでも製造業は伸びていませんので。ただし、アメリカの場合は、(ソフトウエアやヘルスケアなど)新しい産業が伸びました。一方、日本は新しい産業を興せていないのです。
私自身、学長に就任した時に、改めて東工大の歴史を読み返してみました。そこに書かれている創立の精神とは、「大学が人を育て、その人が工場、そして工業を興す」といったものです。間違っても、すでに存在する工場や産業に人材を送ることを目指しているのではありません。新しい産業を生み出すこと、その新産業によって社会を豊かにすることが東工大のミッション。それを果たすためには、東工大自身が変わらなければなりません。

──企業側は大学に対し、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成に期待しているとの声があるようです。
少なくとも富士通は、大学にDX人材を育ててほしいとは言いません。
なぜなら、本当のDXはテクノロジーだけでは実現できないからです。
ビジネスモデルを変える必要があるし、時には政府の規制も変える必要もあります。DX全体を1人で担う「超人」はいません。したがって、他者とのコラボレーションが必要です。つまり、DXに必要な能力とは人を巻き込む力。メッセージ性のある発信ができ、共感力もある、人間的な魅力にあふれた人が必要です。魅力がある人は、さまざまな経験をしていることが多い。だから、大学に求めるのは、(社会と広く人材交流する)「オープンキャンパス」という場。「サイロ」からは、決してイノベーションは生まれません。
*サイロとは、部門同士の交流がない縦割り型の組織。「タコつぼ化」とも呼ぶ
正直に話すと、富士通にはサイロが残っていました。上下のヒエラルキー(組織階層)の中で、社員は目標達成のために「やれやれ」言われてきたのが現状です。もちろん、富士通自身も、複数社と協業するオープンイノベーション型のビジネスへと大きく変革しようとしています。その点、東京医科歯科大学との統合という挑戦は、大歓迎です。

教養は、理系の「シンクタンク」
──東工大と医科歯科大は、理工と医学に加え、情報学、人文社会学系を融合した「コンバージェンスサイエンス」を目標に掲げています。
東工大の出自として、「匠」または「オタク」などと言われます。それはそれで僕らの特徴であり、大切にしたいと思っています。
同時に、東工大には、リベラルアーツ(教養)教育においても長い歴史があります。彼ら彼女らの言葉を借りれば、リベラルアーツは「東工大のシンクタンク」。
「寄り添ってくれる存在」です。
リベラルアーツを担当している教員が研究の現場にも顔を出す。それも、東工大の特徴の一つだと思っています。
*リベラルアーツ(教養)とは、複数の学問を自主的に深く学ぶことで、偏重した考えや固定観念から解放されて自由になるという考えに基づく。

──くしくも富士通が強化している領域が、経済学や心理学を取り込んだ「コンバージングテクノロジー」です。
例えば、財界関係の会合では、日本企業がDXで遅れていることが議論になります。そのほとんどが人材不足の話題になり、理系人材の不足といった話になります。しかし、(東工大OBで、理系である)僕自身からしても、理系人材の育成だけを考えることはバランスを欠いた議論だと思っています。
富士通は、2019年から、AIの倫理的な影響度合いを評価しています。目指すのは、ヒューマンセントリック(人間中心)なテクノロジーです。また、イノベーションはテクノロジーだけでは起こせません。「デザイン」の力も必要です。
*デザインとは、ユーザー視点で問題解決を目指す「デザイン思考」などを指す。
デザインの力は、富士通にとっても、足りない分野。多くの日本企業にとっても課題です。理系人材は研究開発に専念し、それを実装するときに人文社会科学の人が担う。そのような順序や区分はやめ、双方が伴走すべきです。

東工大×富士通のスパコン
最後に、東工大と富士通が10月に締結した産学連携。その目玉となる、次世代のコンピューター開発について聞いた。
Q1 スパコンで提携の背景は?
カーボンニュートラル(CO2排出量をゼロにすること)や、MaaS(自動車やバス、電車、飛行機などあらゆる交通機関の予約と決済をAIで統合する)などによって、より高度な計算処理が必要になります。今後のスパコンは、半導体そのものの性能向上だけではなく、データの転送スピードやソフトウエアとの最適化など、総合的な視点が必要です。例えば、富岳ではコンピューターを効率よく冷やす「水冷」技術などによって、省エネ性能を高めました。東工大と富士通で強みを持ち寄りたいと思います。
Q2 これからのスパコンはどうなりますか?
SUBAMEはもともと、誰もが使える「みんなのスパコン」のコンセプトで開発されました。このコンセプトを発展し、身の回りの機器がインターネットを通じてスパコンと連携できる世界のが究極の目標です。
Q3 日本の半導体産業が苦戦する中、活路はどこにありますか?
日本に先端技術がなくなったというニュースもありますが、必ずしもそうではありません。特に私が注目している指標が「ECI」です。
日本は20年以上、ECIで世界トップの座を維持しています。

スパコン一つをとっても、半導体だけでなく、特殊な材料や部品が必要です。そのような独自の材料や部品を製造している中小企業が日本に数多く存在しています。
このような日本にある多様な技術を統合していくことを意識していきたいと思っています。」


参考1

参考2


まとめ/コメント
多様性を活かしたオープンイノベーションにより、産学官連携の良い事例がどんどん出てくる。そうしている間に、新しい事業が生まれることを期待したいものだ。
W杯の決勝は、アルゼンチンとフランスになった。4年後の日本の挑戦に「どんな新しい景色を見られるのか」楽しみが一つ増えた気がする。




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