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まがつびよふたたびここにくるなかれ〜短詩(短歌・俳句・川柳)を楽しむ②〜
今回は、膨大な短詩の群の中から、私の眼鏡にかなった短詩を1首(句)ずつ取り出し、皆様とともに鑑賞して参りたいと思います。
短歌を楽しもう
まがつびよふたたびここにくるなかれ
平和をいのる人のみぞここは
湯川秀樹
昭和24年に日本人で初のノーベル賞(物理学)を受賞した湯川秀樹博士の1首です。この1首は広島の平和記念公園で詠まれた作品です。
「まがつび」というのは、凶事を惹き起こす神のことです。
湯川博士は研究のみでなく、反核平和・核兵器禁止を心から願い、日本国内外で核兵器廃絶の運動にも力を注いでおられました。
湯川博士は、核兵器の廃絶こそが、現時点の最緊急課題であるとし、そのための核抑止という考え方の放棄を要求し、核兵器を戦争や脅しの手段にすることは、人類に対する最大の犯罪である、と断言しました。
私達の国日本は、唯一の被爆国でありながら、歴代の政府と政権与党はアメリカの核に自国の安全保障を委ねるという核抑止論の立場を取り続けております。
国際社会では、核保有国や核抑止論の国が長い間幅を利かせておりましたが、この世界に大きな地殻変動が起こりました。
国際社会における核兵器の非人道性に対する認識の広がりや核軍縮の停滞などを背景に、2017年(平成29年)7月7日、「核兵器禁止条約」が国連加盟国の122カ国の賛成により採択され、多くの国が核兵器廃絶に向けて明確な決意を表明しました。
2017年(平成29年)から各国による署名は開始され、2020年(令和2年)10月24日に批准した国が発効要件である50か国に達し、この条約は2021年(令和3年)1月22日に発効しました。
この快挙に黄泉(よみ)の国で湯川博士もさぞ顔をほころばせていることでしょう。
岸田首相は、来年日本で開催されるG7首脳会議を、広島で開催すると誇らしげに発表しておりますが、岸田首相は核兵器の存続を認める、核抑止論者です。
湯川博士は、核保有者や核抑止論者には、広島に足を踏み入れてもらいたくないと詠っておりますが、岸田首相はこのことをどう受け止めるのでしょうか。
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俳句を楽しもう
短夜や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎(すてっちまおか) 竹下しずの女
この句は、大正9年(1920年)作者が34歳の時の句です。季語は「短夜」で夏の季語です。
蒸し暑い夏の夜、母乳の出も充分でない乳房に、いく度も吸いつきながら、焦々(いらいら)と泣き声をあげる児に、母親自身も泣きたくなっているのです。
「捨てっちまおか」と口語表現が、この場合に効果的なのはいうまでもないのですが、それを漢語で表したところに、現実を一歩離れた諧謔性が生まれ、当時の男社会の男達をさぞ驚天させたことでしょう。
さて、作者がこの句を作ってから、すでに100余年の歳月が経過しております。
1985年(昭和60年)には、女子差別撤廃条約が批准され、男女雇用機会均等法が実施されましたが、今なお日本の女性は旧慣習によって束縛され、男女平等の理念は今なお遠いのです。
そこにこの句が今なお生き続け、読む人の心を打つのです。
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川柳を楽しもう
味噌汁は熱いか二十一世紀 田口麦彦
21世紀になり、早くも20年余が徒過しています。
振り返ってみますと21世紀も5分の1が過ぎたことになります。
この世紀がスタートしてまもなくの2001年9月11日、ニューヨークで同時多発テロが発生し、この世紀は「戦争とテロの世紀」としての始まりかと不安を抱きましたが、この不安は的中しております。
戦争にテロ、これにコロナ、地球温暖化が加わり、21世紀のこの星が果たして持続できるのか、行く末が危ぶまれています。
私も20世紀に生まれ、この世紀の大半を生きてきて、21世紀を前にした時、21世紀とはいったいどんな世紀になるのだろうと不安と期待が入り交じり、複雑な気持ちで新世紀を迎えたものです。
この川柳は新世紀を迎えようとする20世紀の複雑な心境を、味噌汁を持ち出して表現しているのです。
私達日本人は、引き続き熱い味噌汁を啜りながら、次の世紀の22世紀を迎えることになるのでしょうか。
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激浪の本流支流押し戻しかくて支流は人家を呑みぬ(短歌)
短夜も祖国防衛ウクライナ(俳句)
殺傷の武器もおねだりウクライナ(川柳)
核の傘捨てて仲良くソンブレロ(川柳)
写真は、我が家の紅蜀葵(こうしょっき)です。