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「情報はどれだけインプットすればいいのか問題」の何が問題なのか?
はじめまして。市瀬博基と申します。
協働と対話を通じた組織開発について考えています。
文化人類学の視点でとらえたビジネスやマネジメントについて大学で教えたり、コーチングやAIを中心に対話型組織開発のコンサルティングや研修を行ったり。ビジネス書籍の執筆や翻訳をすることもあります。
ここでは、ふだんあまり触れる機会のないテーマについて書いていこうと思っています。
それは、専門分野をタテに掘り下げるタイプの知識も大切だけど、そうした知識と、関連する分野(さらには、まったく関係がなさそうに思える分野)の知識とをヨコに「つなぐ力」が、これからのビジネスにはますます必要になる、ということです。
大学での授業や講演、あるいは研修という場では、一つのテーマを掘り下げる形で話をすることになります。
でも、大きな環境の変化に適応すべく、柔軟かつ機動的に知識を活用するためには、タテに掘り下げるタイプの知識やスキルをバラバラの状態のまま、数多く「貯える」だけでは不十分なんじゃないか?
そこで必要になるのは、一見するとまったく関係がなさそうに見える知識やスキルを横断的にむすびつける「つなぐ力」なのでは?
そんな気がするんですね。
「つなぐ力」については、ボンヤリと考えはじめたばかりなので、話があっちにいったりこっちにいったり、フラフラするかもしれませんが(確実にそうなると思う)、そうしたフラフラ感も含めて、気楽に読んでもらえたらいいなと思っています。
「情報はどれだけインプットしたらいいのか問題」の何が問題なのか?
環境が大きく変化し、情報化社会の進展の大きさやスピードもますます増大している今日この頃。ビジネスパーソンのみなさんは、日々の情報のインプットに余念がないと思います。
インプットする情報は、多ければ多いほどよい。
情報インプットの重要性が語られるとき、なんとなくそうした前提が置かれているような気がします。でも、これって本当なのか? とモヤモヤすることはありませんか?
「これだけインプットしておけばOK」という目安がないのだとしたら、より多くの情報をひたすらインプットしつづけなければならないのか?
そんなわけないですよね。
「情報のインプット量はハンパないのに、仕事はイマイチなんだよな」という人もいるし、その一方で、「とくに熱心に情報収集しているようには見えないけど、考え方は柔軟だし、新しいアイデアがバンバン出てくるぞ」という人もいるからです。
もちろん、「あいつはものすごい量の情報をインプットし、それを縦横無尽に仕事に活かしているぞ」という人もいます。
パフォーマンスの質に影響を与えるのは、インプットした情報の量ではない。だとすると、インプットした情報を、よりよいパフォーマンスに結びつける要因は何なのでしょうか?
「つなぐ力」が情報の「吸収力」を高める
どれだけサプリを摂取しても、体内に吸収されなければ意味はないですよね。
これと同じように、より高いパフォーマンスを生み出すためには、単にインプットする情報の量を増やすこと(だけ)ではなく、日々の仕事に活かせる形で情報を「吸収する力」を高める必要があります。
どうすれば情報を「吸収する力」を高めることができるのか?
それは、すでに知っていること・経験していることと、新たにインプットする情報との間に、「つながり」を見出そうとする心構えやスキルです。
新しい知識やスキルを、すでに自分が知っていること、ふだん自分がやっていることとはまったく別の、なにか特殊な考え方や行動パターンとして理解するのではなく、ふだんの行動やこれまでの経験を振りかえり、「新たな」知識やスキルとの間にどのような「つながり」があるのかに気づくこと。
こうしたプロセスから生まれる「つなぐ力」を磨くことで、情報の「吸収力」が高まり、パフォーマンスが最大化されます。すでに経験し、知らずしらず身につけていることと、新たにインプットする情報を「つなぐ力」がビジネスを加速するんですね。
「つなぐ力」=「学びを深める力」
「学習する組織-システム思考で未来を創造する」の中で、ピーター・センゲがこんなことを言っています。
「学習」という言葉はどちらかといえば、 「教室に受け身の姿勢で座り、耳を傾け、指示に従い、間違えないことで先生を喜ばせる」というイメージをすぐに呼び起こす。
実際、日常的な語法としての「学習」は「情報を取り込むこと」と同意語になった。 「はい。昨日の研修でそのことについては全てを学習しました」と言うように。
だが「情報を取り込むこと」と「真に学習すること」とは遠い親戚程度の関係だ。「サイクリングについてのすごくいい本を読んだところなんだ、サイクリングのことはバッチリ学習したよ」と言う使い方は馬鹿げている。
情報を「取り込む」、つまりインプットすることは、学習し、学びを深めるために必要な最初のステップです。しかし、真の学びを深め、柔軟かつ機動的に環境変化に適応できるようになるには、さらにその先のステップが不可欠です。
「一を聞いて十を知る」という言葉にあらわされるように、「真に学習すること」を実現するためには、インプットした一つの情報をそれとは別の九つ(あるいはそれ以上)の情報とつなぎ合わせて理解し、認識や判断、行動のバリエーションを増やしていくことが重要なんですね。
センゲは「真の学習」について、「自分自身を再形成する」ものであり、「以前には決してできなかったことができるようになる」ことであり、「世界の認識を新たにし、世界と自分との関係をとらえ直す」きっかけを与えてくれるものだと語っています。
この言い回し、抽象的すぎて、何がどういうことなのか分かりにくいですよね。でも、ここに「つなぐ力」を重ね合わせると、「真の学習」の輪郭がはっきりしてきます。
「つなぐ力」を身につけ、いま自分が置かれた状況の意味や意義を、まったく新たなものとしてとらえ直すことによって、それまでの考え方と行動を大きく変化させることができる、ということなんですね。
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コーチングに対話型組織開発、リーダーシップにポジティブ・マネジメント。
それがどんな場であれ、あるテーマに関して語っていることは、じつはそれ以外のさまざまなテーマと、ときには深く、ときにはゆるやかにつながり合っていて、こうしたヨコの「つながり」を見出そうとする心構えや力が、これからのビジネスにはますます必要になってくる。
本当はそういうことを伝えたいと思ってはいるのですが、なかなか「つなぐ力」そのものに触れる機会がないのが残念だなと思っていました。
そんなわけで、ここでは「つなぐ力」のさまざまな側面や、この力を身につけるために何が必要なのか、といったことについて(フラフラと行きつ戻りつしながら)書いていこうと思っています。