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この世界は生きづらく、あたたかい。/すばらしき世界(感想)

ここ数年で一番、ボロカスに泣いた映画だった。
この映画は、人が人に出会って、再生していくことを扱っている。

ヤクザだった主人公が、10年の刑期を終えて出所していくところから物語は始まっていく。
刑務所の文化の中に、『身分帳』というものがある。受刑者のことを事細かく記載する記録簿である。主人公である三上正夫は、受刑10犯、人生の半分を鉄格子の中で過ごし、その身分帳は積み重ねると1メートルを超える。
三上の出所と同時期にこの映画のストーリーテラーである、TV局のディレクターの津乃田のところに、三上の身分帳が届く。三上は幼い頃に離別した母親に会いたいと願い、津乃田に話を持ち掛けたTVのプロデューサーは、三上のことを取り扱ったら視聴者にうけるのではという思惑がある。
津乃田は、迷いつつも旭川から東京に戻ってきた三上と会い、三上の日々を近くで見ていく。
身元引受人になった弁護士の助力もあって、日常に戻ろうとするが、前科もの三上にとっては生きづらい日々が続く。
持病の高血圧、前科もの故に仕事もみつけづらく、瞬間湯沸かし器で喧嘩っ早い性格でのトラブル、スーパーでは、万引きしたのではと疑われる。
しかし、三上は耐えるしかない。耐えるしかないのだ。世間は、寛容ではないから。問題をおこしたら、「ほら、やっぱり」という声が自分の身に振ってくることを三上は知っているからだ。そんな姿をみていると苦しくて、胸が痛くなってくる。
その中でも、三上は人と出会っていく。
この映画で三上が出会って仲良くなっていく人物たちは誠実で、真摯に三上と向き合おうとしている。
福祉課のケースワーカーが、三上が就労しようとしていることを知ったとき、「就労すると支給額が下がってしまいますよ」とまず給付金のことを話題に出し、三上は「俺だって、働いて社会と繋がりを持ちたい!」と怒鳴ってしまう。それに対して「三上さんの働こうという気持ちに水を差してしまって申し訳ない」と素直に自分の言動に謝る。
万引きを疑ってしまったが、その後仲良くなったスーパーの店長も、ある日の会話の中で三上が激昂しても「今日の三上さんは虫の居所が悪いんだね」といなしてくれる。
少しずつだが、三上の日々は前に進んでいく。

人が人に出会うことで再生していく。わたしたちの日常も同じだと思う。

三上のこころの傷は深いけど、接してくれる人たちの関わりでそれ以上に深くなることはならない。

最後は、ボロカスに泣いてしまった。良い映画でした。

この世界は生きづらく、あたたかい。

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