お子さんの字が絵のように見えたときは
〈大人と子どもの見え方は違う〉
大人は、自分が子どもの時に、どうやって文字を覚えたかを忘れてしまっています。もちろん、鉛筆を持ってドリルやノートに何回も書いて...という作業は覚えています。何を忘れているかというと、その時の“感覚”です。この“感覚”は、本質的には他人には絶対に分からないことなので、言葉で相手に伝えるのがなかなか難しく、よって、記憶としても残りにくいのだと思います。
では一般的に、子どもはどんな感覚で文字を感じているのでしょうか。(ここでは、特に未就学児を対象とします。)
それを考える時に、大前提として分かっておかなければならないことがあります。それは、“子どもは、大人と同じようには文字を見ていない”ということです。平仮名も片仮名も漢字も数字もローマ字も、大人と同じようには見ていません。同じ字を見ているのだから、同じように見えているのだろうという思い込みを捨てないといけません。
それは、“子どもはまだ未熟だから、大人のようには見ることができない”ということではありません。大人と子どもとの差は、単純に文字を見た回数です。大人は生きた年数が長いですから、文字をものすごい回数見てきたはずです。子どもはその何万分の一くらいでしょうか。もっとかもしれません。とにかく、絶対的に文字を見たり書いたりした回数が少ないのです。大人だって、草書をいきなり見せられたら、どこから書き始めればいいか分かりませんよね?だからといって、その大人が未熟だとは言えません。草書に触れた回数が少ないだけなのです。回数が少ないのと未熟であるということは全く違うということを、ご理解ください。
〈絵と文字は同じに見えている〉
では、どのように違く見えているのでしょうか。ザックリ言うと、“絵のように”見ています。平面的に、パッと、まさに絵として認識していると思います。別の言い方をすると、順番を意識していません。なので、思いがけないところから書き始めたり、やけに細かいところにこだわったりするわけです。書き順などを含めた文字のルールを十分に理解していないのでしょう。
ただこれは、先ほども言ったとおり、未熟だからと捉えるのは違います。おそらく子どもは、そういった文字のルールに、まだ“興味がない”だけです。興味のない人に、いくら口うるさくルールを守れと言っても、響かないですよね。だって興味ないんですから。
〈子どもは文字よりもお絵かきが大好き〉
子どもは、何かを書く(描く)ことが大好きです。ですから、とりあえず書き順や形なんて気にせず、どんどん書いていいです。つまり、絵のように認識したままでも、書き続けていいということです。
歴史上、人類は文字よりも先に絵を描きました。私は、これに従った方がいいと思うんです。まずは徹底的に絵を描く。その後に、文字が少しずつ生まれてくる。この人類の長い歴史の順番に沿って、一人ひとりの子どもにも同じように経験をしてもらう。
子どもが絵を描くことを、大事に大事に見守らなければいけません。文字を教えている時に、いきなり絵のようなものを書き出す事がありますよね?“この子はなんて集中力がないんだろう”とか、“文字を理解する力がないんじゃないか”とか、そんな事を考えなくて大丈夫です。ただただ、その出てきた絵のようなものを、見てあげてください。そして、子どもが何か話したら、その言葉に寄り添ってあげてください。そして、描くことに少し飽きてきた様子を見せたら、また字の練習に戻ればいいのです。それにも飽きたら、その日はやめていいと思います。文字は、そもそも高度なものです。焦って覚える必要はありません。
たまには、お絵かきだけの時間も作ってあげましょう。色鉛筆、クレヨン、絵具、なんでもかまいません。テーマを決めずに自由にお絵かきをする時間は、それだけで心が充実します。描いた絵は、ピンやテープで壁に貼ってあげると良いでしょう。”自分が描いたものを、家族に見てもらえる”という体験は、本当に貴重なものです。
〈子どもはどうやって文字を練習すればいいのか〉
”そんなのんびりしていたら、うちの子はいつまで経っても文字を覚えられない!”という方もいるでしょうが、決してそんなことはありません。例え平仮名と片仮名をマスターしないまま小学校に入学したとしても、1年生のうちにマスターできるので、安心してください。最初は苦労はするかもしれませんが、子ども自身が危機感を持って覚えようとするものです。※もし2年生になっても平仮名が書けない時は、学習障害の疑いがあるので、学校や専門機関に相談をおすすめします。
ただ、お気持ちはわかります。いくら焦ることはないと言っても、一つ重要なことがあります。それは、”毎日文字に触れる”ということです。小学生以上の子どもはなぜ習った文字を忘れづらいのかというと、毎日学校で文字を書いているからです。たった一回で何かを覚えることはとても難しいことなので、”うる覚えを何度も繰り返す”というのが重要です。これは、例えば中学生が英単語を覚えるときも同じです。とにかく、毎日のように触れていないと、そもそも大量の単語を覚えられないですし、長期記憶にならずにすぐに忘れてしまいます。
未就学児に平仮名や片仮名を教えようとするときも同じです。1回教えただけで読めて書けて、その後もずっと忘れないようであれば、それはそれで素晴らしいですが、そんなことは珍しいでしょう。やっぱり、覚えたと思ったら忘れたり、全然覚えられないと思ったら突然覚えられたり。そんなことの繰り返しだと思うんです。大人がそれを無理やりコントロールしようとしたらダメなんですね。
なので、毎日触れるんです。毎日、ちょっとずつ、文字を読んだり書いたりすることで、うる覚えを繰り返し、大人も子どもも出来るだけストレスなく学習していく。学習すること自体を嫌いなってしまったら、元も子もありません。そんなことは絶対にダメです。大人が一番やってはいけないことです。
具体的には、夜寝る前に絵本を読んであげるといいでしょう。街に出たら、看板を一緒に読んでみましょう。お店に行ったら、館内放送を聞き取ってみましょう。近所の人にあったら、挨拶をしましょう。こんな風に、日常の中に普通にある言葉に、楽しく触れてみましょう。
月齢やレベルに合った市販のドリルを買って、最初から順番に取り組むのもいいと思います。ドリルはどんなものでも構わないと思います。ネットで買っても良いですが、少なくとも最初は一緒に本屋さんに行きましょう。大人が2〜3冊選んであげて、そこからお子さんに選んでもらうと、スムーズだと思います。
〈文字は難しい。会話を大切に〉
文字はそもそも難しいものだと言いました。ゆっくり学習すればいいのです。それよりも、家族の会話を大事にしましょう。いくら文字がたくさん綺麗に書けたって、話したい事や伝えたい事がなければ、なんの意味もありません。文字を練習している時だって、文字の練習自体よりも、練習している時の親子のやりとりを楽しみましょう。
そういった心構えがあると、大人も子どももストレスなく触れ合う事ができるのではないでしょうか。“文字で遊ぶ”くらいの気持ちの方が、充実した時間を過ごせるでしょう。
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