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ブラッド・ペインティング 2020年の絵のはじまり/一日一微発見166

僕のような仕事は、時代の空気の中にある予兆を、他の人より早く触知することが肝要となる。
地球の気象が、太陽光の、ほんのすこしの増減によって大変化するように、人の心や価値も、ちょっとしたトリガーで激変する。
今や、何が変化の要因となるかはわからない時代に僕らは生きている。

昨日までゆるがないと思われていた「確証」は、翌日には、あてにならないものになってしまう。

20世紀に終わりから新世紀に入って、もう20年もたってしまった。
ちょっと振り返って実感されるのは、僕らは本当に「乱世」に生きているということである。

それも、革命と戦争にあけくれたモダンな、20世紀とはまったく異質な乱世を、である。

もうほんとうに暴風の中にいる。

かつて「確証」の砦だった「言説」、イデオロギーや理屈はふっとばされてしまった。
それにかわってはびこる反知性主義は、もちろん好きではないが、「ポストモダニズム」に固執している場合でもない。

失効、失効、また失効だ。

さて。
先日、aatmアートアワードトーキョー丸の内の審査があって、僕は個人賞に磯崎隼士くんの作品を選んだ。
彼の作品は、彼自身の血を採血し、ナベにとり、麻布で無垢なベニア板に塗った「絵画」であった。
彼はなぜそれを「描いた」のかと聞かれて「血が美しかったから」と答えた。

磯崎君は、夏でもフェイクファーの白い毛のジャケットを裸の上にはおっている。
彼の裸の体には、、イレズミが抽象画のように彫り込まれていて、それは魅力的な「絵画」をうみ出している。

彼は生きながらにして、「絵」として生きている。そんな男なのだ。

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