フェルナン・ブローデルが教えるヴェネツィアの魔力/一日一微発見452
旅は相性のいい2人がいいにきまっている。ハードな移動だし、誰であれ疲れる。
だけれど相性のいいパートナー同志なら、見るもの、飲むもの、食べるもの体験のすべてがポジティブになる。楽しさがまさるからだ。
僕と妻の渚は、相性がすごくよいので、歓び
を共有できる。まったく宇宙に対して感謝しかない。
ヴェネツィアには、ビエンナーレごとに2年に1度はかならず来ているが、その相性が見事に発揮される街だ。
今回の旅はロンドンから始まった。約1ヶ月の長旅を計画した。2人の旅の、今までで最長である。その旅程の中でもヴェネツィア滞在は1週間にした。ビエンナーレには2日間を割りふっているが、その会場だけでなく、ヴァポレットを使って、とにかく街を移動し、歩きまわり、味わう。
僕は毎回ヴェニスにくる時には、この街を色んな角度でもっと体感したいので、小さな本も持ってくるように心がけている。
今回は、大著『地中海』で有名な歴史学者フェルナン•ブローデルの小著『都市ヴェネツィア』である。
ブローデルは1902年生れ85年に死んたが、この本の原著は1984年に出版されたものだ(邦訳は1990年)。彼はこう書く。
「もしわたしが、まさしくヴェネツィアの心、そこを訪れる人々の、さらにはこの町を熱烈に愛する人々の心を探るよう依頼された哲学者だったら、あるいはもっとよいのは精神分析学者であることだが、もしそうだったら、私の思考はなによりもまず変化のテーマ、「断絶」のテーマをめぐって展開したにちがいない。変化、亀裂、断絶ーすくなくとも新たな出発の可能性を破壊しないかぎり、それらはそれなりの効能をもっている。ゴーギャンはタヒチに赴き、彼の画布は明るく輝く。ヴァン・ゴッホ、もモディリアーニ、ピカソがパリに来る。すると彼らはそれまでとは違った人間になる。断絶という事件のなかで、しばしば起るのは、人がかつての自分からというよりも、社会や時代や人生のさまざまな事件によって作なおされいた自分から脱皮するということである」
ブローデルは民衆の視点に立つアナール派の歴史学者である。したがって、この町にやってきて、古文書や資料を掘り出して、ヴェネツィアの街の成り立ちや人々に接近して行った。
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