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僕の夏の課題読書②ルシアン・フロイドの評伝で考えたこと/一日一微発見400

壁に、「FLESH」とカッティングシートの文字があった。「肉か」。確かに、「これらの絵」をそのコトバによって、ピンどめすることはできるが、はたして適切か。

思いがけずマドリッドの、ティッセン=ボルネミッサ美術館で、画家ルシアン・フロイドの回顧展レトロスペクティプに遭遇した。

マドリッドにはプラド美術館というベラスケスとゴヤを有する絵画の帝国があり、また、ドイツ出身の成り上がりであり、今はスペインの国有のものとはいえ、エリザベス女王についで史上最大のプライベートコレクションを形成したティッセン=ボルネミッサ男爵の大美術館がある。

このような場所で、現代の「特別な画家」の一人であるルシアン・フロイドの絵を見ることは、実にスリリングだ。それは絵というものの存在を生々しく感じさせてくれるからだ。

あらためて言うまでもなく、ルシアン・フロイドは、精神分析学の大家ジーグムント・フロイトの孫として1922年に生まれ、ロンドンで
育った宿命と血を持つ。
88才で亡くなるまで、数多くの結婚と情事を重ね、またその作品は、晩年にはオークションで30億円を超す価格でディーリングされるようになった。ギャンブル狂で、大借金をかかえても節約は一切行わず、死んだ時の遺産はなんと150億円以上あったのである。
まさに波瀾万丈。

しかし彼の生活のすべては「絵画」のためについやされた。モデルが何時間も横たわるベッド、何百本もの絵筆、かたまった絵具が堆積した壁。限られたモノだけが置かれた小さなアトリエに毎日こもって過ごした。

「LUCIAN FREUD NUEVAS PERSPECTIVAS」と題された展覧会会場に足を踏みこむ。

展覧会は、1940年代の初期の細密画風の小品から始まる。「女とスイセン」「子と子猫」シュルレアリズム風の「Painter's Room」などの代表作から始まり、やがてフランシス・ベーコンとの出逢いにより、がらりと作品が変わって、絵の具の生々しい筆致のスタイルへと移行していく。

壁には次の文字がある。

「What do I ask of a painting ?
I ask it astonish, disturb,
seduce, convince.」

絵に何を求める?
私はそれに、驚き、かき乱し、誘感、そして納得を求める

展覧会は実に見ごたえがあるもので、フロイドの代表作のすべてがここにあると言ってよいものだった。
ティッセン=ボルミネッサ男爵その人のポートレイトもあれば、ホックニーの肖像、そしてリー・バワリーなども出品され、最後は、フロイドのアシスタントでもあったテビッド・ドーソン(モデルにもなっている)が撮影したアトリエでのフロイドの写真が並んでいた。
写真の中のフロイドは、つねに上半身裸であり、それは激しいパッションを感じさせるものだった。

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