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ウィジーWEEGEE『The Village 』/目は旅をする027(天国と地獄)

ウィジーWEEGEE『The Village 』Da Capo Paperback刊

2019年の9月にロンドンに行った。映画監督スタンリー・キューブリックの大回顧展が、ヨーロッパを巡回していて、ロンドンではデザインミュージアムを会場にして開催されていた。

どうしても見たかったのだ。僕が行ったのは最終日で予約制だったが、満員だった(旧友のジョナサン・バーンブルックとトイレから出てきてばったり遭遇したっけ)。

キューブリックの全映画の素材が集められた、見どころ満載の展覧会だったが、その中に異色な写真コーナーがあった。

キューブリックは映画監督になる前は写真家で、雑誌『Look』などでルポルダージュっぽい写真で知られていた腕前だ(写真家デビューは17歳)。
もちろんキューブリックが撮った写真も出ていたが、そのコーナーは、1945年に写真集『Naked City』がベストセラーになった写真家WEEGEEが撮った、映画『博士の異常な愛情』の一連のスティール写真であった。

1人3役をこなす怪優ピーター・セラーズはパイ投げでクリームまみれ、カメラを覗きこむ撮影中のキューブリック、撮影の合間に談笑する監督とWEEGEEの写真もある。
WEEGEEは葉巻をくわえ、ハンチング姿で愛機スピードグラフィックについてキューブリックに説明しているところだ。

壁に貼られたキャプションによれば、アメリカ高官とソ連の大使たちのパイ投げシーンは、キューブリックの完全主義のために5日間撮影したにもかかわらずあまりに「シリアス」マジになったためボツになったのだと言う。だから我々が見ることが出来るのは、WEEGEEによる「事件」写真だけだ。

キューブリックの映画にWEEGEE。これは意表をつかれた。なぜ?

WEEGEEの傑作『Naked City』は、マンハッタン警察署を根城にしていた彼が、10年間に渡って撮影した写真をエデットしたもので、ギャングの抗争、殺人現場、スラムで暮らす人々、娼婦たちなとスキャンダラスなシーンをフラッシュバルブの強い閃光で撮影したモノクロ写真と、キャプションで構成されている。

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彼は警察が使っている短波無線機を自分の車につけていて、誰より早く「事件現場」に直行しスクープをものにした。彼の本名は、アーサー・フェリグだったが、WEEGEEと言う名前は、コックリさんの「ウィジャボード」の「ウィジャ(Ouija)」から取ったもの。まさに彼は犯罪写真をさきどりする霊能者だった。


62才の時に出た彼の自伝『WEEGEE by WEEGEE』には、警察から「殺人株式会社」と呼ばれた彼の仕事ぶり・事件簿のエピソードが満載されている。
彼はこの本で「写真機はアラジンの魔法のランプだ」と言う。

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