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緒方範人『RASTERIZER』/目は旅をする029(カタストロフから写真ははじまる)

緒方範人『RASTERIZER』アートビートパブリッシャーズ刊

G/P galleryは、2008年から2018年の10年間にわたり極めて実験的なプログラムを実践した、コマーシャルギャラリーであると同時に、激しくそれから逸脱した運動体であった。
そしてその写真のディケイドは、結果的に、2つの大きな変容によって祝めづけられたと思う。

1つは、デジタルによる創造的破壊(ディスラプション)であり、もう1つは、311東日本大震災によるカタストロフであった。
その「G/Pの第1期」を振り返った時に、そこには異様なまでに個性的な現代フォトアーティストたちが蝟集していた。
とりわけ「都市」の変異をモチーフとするアーティストたちがいた。例えばそれは小山泰介であり、横田大輔、赤石隆明、川島崇志、小林健太であり、そしてここで取り上げる緒方範人であった。

彼らはスタイルは全くバラバラだし、写真的な出自も異なっている。彼らは仲は良くとも友人同士でもなく、狭い意味でのライバルでもなく、同時代の写真の変容を様々な「問い」として提出しようとするG/Pという場に集まった才人たちであった。

緒方範人の写真は、建築や都市をテーマとし、最新のテクノロジーを駆使してイメージを生成するという資本主義の渦のど真ん中に突入するものでありながら、同時に時代の中で「異端」であり続けている。

緒方範人の写真は、1990年代にアメリカに渡ることから始まった。Maine Photographic Workshop、Herkimer County Community Collegeで写真を学び、帰国後は、写真家・金村修のワークショップでストレートフォトをさらに学んだ。
しかし、彼は他の写真家のようにストレートフォトやストリート、あるいは広告写真へ向かわなかった。彼はバイクを趣味とし、都市のハイウェイを高速で疾駆することを快楽としたし、彼が魅かれたのは、都市に人工的に屹立する高層ビルや建築群だった。彼の初期の写真は、東京の都市景観と建築写真が大半で人間の写真など一枚もない。

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