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目は旅をする・後藤繁雄による写真集セレクション

ヴィジュアルの旅は、大きな快楽を、与えてくれるし、時には長編小説以上に、人生についてのヒントを与えてくれます。 このマガジン「目は旅をする」は、長く写真家たちと仕事をして、写真…
後藤繁雄おすすめの写真集についての記事を月に2~3本ずつ投稿します。アーカイブも閲覧できるようにな…
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#現代写真

林田真季『Wondering Guide: A Wonder-Land on Ecology and Society 』/目は旅をする089(風景と人間)

林田真季『Wondering Guide: A Wonder-Land on Ecology and Society 』 (G/P+abp刊) 20年ほど前に、大阪港の埋め立て地「夢洲」で、野外アート展をプロデュースしたことがある。 それは大阪にオリンピック(万博ではない)を招致するための、さまざまなプログラムの一環であり、ちょうど僕はキリンプラザ大阪(KPO)という現代アートセンタープログラムを取り仕切るコミッティメンバーの1人であったので、東京のアーティストもよく知り、

『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now.』/目は旅をする088(写真の未来形)

『I’m So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now.』(Aperture刊) レスリー・A・マーティン、竹内万里子、ポーリン・ヴェルマーレによって企画された写真集『I’m So Happy You Are Here』は、26 名の、日本人女性の写真家をとりあげた重要な写真集/著作であり、その展覧会を 2024 年のアルルの国際写真フェスティバルで見ることができた。 ま

ザネレ・ムホリ「Zanele Muholi」/目は旅をする084(私と他者)

ザネレ・ムホリ「Zanele Muholi」(Tate刊) コンテンポラリーアート、そしてコンテンポラリーフォトを考える時に、それらがたどって来た非対称的(アシンメトリー)な歴史(美術史/写真史)をリシンクすることは、避けて通れない必須課題であり、作業である。 西洋の白人男性、それもストレートの性意識の眼差しによって、多くの表現がうみだされ、文脈化、ひいては歴史化、価値の制度化、権力化が行われてきた。近代国家の多くが、奴隷制や植民地支配による搾取で成り立ってきたのだ。

サム・フォールズ『THE ONE THING THAT MADE US BEAUTIFUL』/目は旅をする083(ニューネイチャー)

サム・フォールズ『THE ONE THING THAT MADE US BEAUTIFUL』 (G/P+abp刊) 彼は野外で、感光溶剤を染み込ませた布のキャンバスを野っ原に広げて、その上に、植物の花や葉、茎や蔓を配置して、長い特には、1年間も放置したままにする。大型の日光写真と言っても良いだろう。最近では、布の上に置いた植物の上から顔料をちらし、それが幾層にもなった美しいレイヤーからなる「絵画」や、陶板にも発展させているが、基本的には写真の考えの発展形態と言ってもよい。

ニック・ワプリントン 『Comprehensive』/目は旅をする082(地図のない旅/行先のない旅)

ニック・ワプリントン 『Comprehensive』(Phaidon Press刊) ニック・ワプリントンの「包括的」を意味するComprehensiveという名の写真集が出た。30年以上にわたる膨大な写真を新たにリエディットした分厚い写真集である。パリのヨーロッパ写真美術館館長でキュレーターであるサイモン・ベーカーの手になるものだ。初めて知るプロジェクトも沢山あり、その軌跡を、見ながら考えさせられることが多かった。 僕がワプリントンに会ってインタビューしたのは1998年

SHIGERU ONISHI 『A METAMATHEMATICAL PROPOSITION』/目は旅をする079(写真の未来形)

SHIGERU ONISHI『A METAMATHEMATICAL PROPOSITION』 (STEIDEL 刊) 大西茂(1928-1994)は、岡山に生まれ北海道大学理学部数学科で博士課程をへて研究室に所属して、「超無限」を研究した。それど並行し、写真作品を作り続け、後年には墨象表現へと発展させた特異なアーティストである。 アヴァンギャルド芸術、実験写真と便宜的に分類されるかもしれない。 瀧口修造は早くから大西を評価したし、また、具体美術協会をサポートしたミシェル

タイラー・ミッチェル『I Can Make You Feel Good』/目は旅をする061(写真の未来形)

タイラー・ミッチェル『I Can Make You Feel Good』(Prestel刊) 新しい写真の時代は、新しい才能(ユース)が作る。これは残酷なまでに、真実だ。 またもう一つの真実は、残酷なまでに、時代がその才能の出現を選ぶということだ。写真家や写真が生き残れるかは、ますます苛烈な闘いになるだろう。 コロナウィルスが全地球をマヒに陥れたり、ロシアのプーチンが過去のロシアの栄光という妄想にとらわれウクライナ侵略戦争を始めたり、それらカタストロフは可能性として議論

スタン・ダグラス『STAN DOUGLAS』/目は旅をする055(アナザーワールド)

スタン・ダグラス『STAN DOUGLAS』 STEIDEL/SCOTIABANK PHOTOGRAPHWY AWARD刊 「アーティストは、基本的に世界のバージョン、現実のバージョンを提示することができ、他の人々が検討できるように提案することができるのです。存在しないかもしれない世界についての考え方を提案することができるのです。他の方法では想像できないようなことを想像させることができるのです」 スタン・ダグラスは、そう語る。 1960年生まれでカナダのバンクーバーを拠点