友達の言葉(1)
いくら考えても自分からは生じ得ない発想や、自力では到達し得ない境地というものがある。
それを、難なく無償で与えてくれるのが友達だ。
私の場合、その多くがほんの一言でもたらされた。
それらが社会一般的に価値ある発言かどうかなんて知らない。
ただ、私にとっては、今もなお胸に刺さったままの、忘れ得ぬ言葉たちである。
そんな中から、ひとつ。
あれは「ポケベル」が登場した頃であった。
外出先で連絡を受け取れるとは画期的!
私は早速飛びついた。
が、ショップに行ったはいいものの、どれを買うかで延々悩む。
それはそれは悩む。
これにはこんな機能が、これにはこんな表示が、これにはこんな音が。
どうしよう?
どうしたらいいんだ!?
その様子を辛抱強く見ていた友達が、こう言った。
「今の生活に加えるだけなのに、どうしてそんなに悩むの?」
えっ・・・?
そうだ・・・ずっとポケベルのない生活をしてきたのだ。
それが普通だったのだ。
私は今、その普通からちょっとだけ背伸びをしようとしているにすぎない。
今より便利になるのだから、どれだって十分ありがたいではないか。
それなのに、僅かな差を気にして長々悩んで・・・どれだけ欲張りなんだよ。
「どうせならよりよい物が欲しい」
「あっちにすればよかったと後悔したくない」
そりゃそうなんだが、この時点でそんなことがわかるはずもない。
細かなことを気にするのは、それのある生活が普通になってからでもいいのではないか?
結局私は、見かけが一番好きなものを選んだ。
一切後悔しなかった。
自慢じゃないが、私は人に干渉されたくないタイプの人間だ。
意見は聞くが、大抵の場合は間髪入れずに言い返す。
それが、この時はぐうの音も出なかった。
この子がショップに付き合ってくれたことを幸運に思った。
自分とは違う感性や価値観は、異質だけれども、宝だよね。
そういう欲は、張り続けていたいと思う。
【友達の言葉シリーズ】
友達の言葉(1)
友達の言葉(2)
友達の言葉(3)
友達の言葉(4)
友達の言葉(5)
友達の言葉(6)
友達の言葉(7)