「旅する家」とは何か 4

4 西洋美術史について

今回からは、「アートプロジェクト」という美術の動きがどのように生まれてきたのか、美術史をざっくり辿りながら説明をしていきたいと思います。

ちなみに、「美術史」というのは「西洋美術史」の事です。「芸術」が「芸術」であるには、この「美術史」の中で作品がどのような意味や価値を持っているかが非常に重視されます。一見誰でも作れるような作品でも、「美術史」の中で革新的な表現であれば価値は非常に高くなり、一方、超絶技巧であったり、誰もが楽しめる作品でも、すでに誰かがやっている手法やアイデアだったり、「美術史」との関係性が見えなければ、それなりの価値にしかなりません。

西洋では古くから「芸術」という概念があって、何百年とその歴史と価値を積み上げ、世界中に広めてきたてきた結果、この「西洋美術史」が本流で、他の国のものは亜流というのが、現在の芸術の世界、特に芸術作品を売り買いする市場=「アートマーケット」を支配している価値観になっています。

日本はもともと様々な工芸品や浮世絵、仏像などの「表現」自体はあったのですが、それらにまとめて価値を付けて分類するような「芸術」という考え方はありませんでした。それが明治になって、日本も近代エリート国家になろう!という目的が出てきた時、西欧からいろいろ優れたシステムを輸入しよう!となり、その中の一つに「芸術」という文化、考え方がありました。

先進国家たるもの、自分の国の「芸術」を持っていないと恥ずかしいぞと、そこから急いで過去の「芸術」に当てはまりそうな作品を見直し、分類し、格付けを行い、「日本美術史」という歴史の流れを作り上げました。またそこからは国家をあげて西洋風の「芸術」を取り入れようとしました。

このように日本では「芸術」という物が、国のメンツの都合で、ここ150年ほどでいきなり始まった急造仕様な文化なので、その歴史や世間へのなじみ方がイビツだったりします。「芸術」ってなに?それがあると具体的にどんなことが起こるの?ということを、民衆とあまり共有しないで国家政策として推し進めてしまったので、美術館や美術史、美術教育はばっちりあるけれど、国民全体としては「芸術」が、それぞれの個人にとってどんな意味がある事なのか、いまいちよくわからないという、イビツな状態を生んでしまいました。

しかし、そのイビツさ自体が「日本美術」の特徴だとも言えます。現代の作家たちは、あえてそのイビツさを生かし、それをどう「西洋美術史」に組み込んでいくか、または「西洋美術史」とは異なった独自の発展を遂げて行くか、という事に価値を見出そうと努力しています。(以前紹介した村上さんなんか、そのいい例ですね。)

さて、話を戻しましょう。ここからは「アートプロジェクト」がどうやって生まれてきたかを説明するために、「西洋美術史」の流れを説明していきたいと思います。ただ、あくまでざっくり行きたいので、最初に全体の見取り図をみなさんに伝えておきましょう。

「西洋美術史」をその大きな流れで乱暴に分けると、

1、近代以前 (原始時代〜市民革命まで)

2、近代   (市民革命〜世界大戦まで)

3、近現代   (世界大戦前後)

4、現代   (大戦後〜現在まで)

5、アートプロジェクトへ (現在の流れがアートプロジェクトへ至るまで)

という形になります。(これは正式なものではなく、佐藤独自のものです)

「1、近代以前」は洞窟で壁画が描かれていた頃から19世紀まで、7000年程度の相当長い時間を含んでいますが、なぜここをひとまとめにするかというと、「芸術」を行う人が、自分の考えや想いではなく、社会やあるシステムのために「表現」を行っていた時代だからです。芸術家が自分の想いをキャンバスにぶつけるなんていう、よくある芸術家像ができたのは、意外にもほんのここ150年くらいの出来事なのです。

そんな時代が終わるのが、「2、近代」になります。革命によって、宗教や王侯貴族の階級からやっと自由になり、自分の事を自分で決める「個人」という考え方が生まれ、芸術はここからやっと作者が自己表現をできる時代になりました。そして、近代の合理的、科学的な考え方に従って、これまでになかった視点からの「表現」を生み出して発展して行きます。

しかし、世界は戦争の時代へ突入して行きます。「3、近現代」では、そんな悲惨な状況を乗り越えるために、「近代」の見直しと克服が始まります。いままでの考え方、進歩の仕方は正しかったのだろうか?もっと他の考えがあるんじゃないかと、これまでの常識をひっくり返すような「表現」の実験が始まり、その行き着いた先は、物質的なものを問題としない、「意図」や「意味」を最重要とする「表現」でした。

「4、現代」では、「意味」や「意図」という、行き着くところまで行き着いて、ネタ切れ気味になった「芸術」が、どうすれば新しいものが生み出せるのかと、これまで「芸術」の外にあった世界に飛びだし始めます。美術館やギャラリーではなく、自然環境の中で作品を展示したり、新しい分野や技術とコラボレーションしたり、さらに「表現」が多様になってゆき、またそれはネットワーク状に関係し合うようになりました。そんな流れの渦の一つとして「5アートプロジェクトへ」の道筋が生まれました。

と、この様な流れで、次からもう少し詳しく「西洋美術史」をたどって行きます。

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