連載イチロー部屋のイッピン58.名工坪田義信作のグローブ
令和4年4月3日。イチローのグローブを2007年まで手掛けた“現代の名工”坪田義信さん(享年89歳)が亡くなった。
これはMLBデビューの2001年に、イチローが使用した同じモデルのグローブ。親指を入れる裏に【義信作】の刻印がある。シルバー「Ichiro」とゴールド「m」の刺繍が美しい。
イチローのグローブは、ハンドリングを良くするために革を徹底的に薄くしている。また、芝によって異なる不規則なバウンドやゴロに対応するために、手首部分の幅を約5ミリ広げている。さらに、外野フライを捕る時に素手で捉える感覚を大切するために、指先が広がるようにヒモを長くしている。
イチローから坪田義信作さんへの追悼の言葉。
「選手の要望は職人さんにとっては時に残酷なものですが、いつも想像を超えるものを作っていただいた。まさに名人芸。初めて手を入れた時の感触が忘れられない。グラブの“顔”と匂いがそれまでのものとは異次元で感動した。あのグラブに出合ったことで、物を大切にすることの重要さを学んだ」
イチローは守備に卓越した選手に贈られるゴールドグローブを、2001年から10年連続で受賞している。チームメイトだった城島健司は、「(イチローは)人のグローブと人のバットは、絶対に触らないですからね。手に重さだったり形だったりが残るのが嫌なんですって」と語っている。