見出し画像

税理士が解説:調剤薬局の在庫管理と評価方法に関する重要ポイント

私が税理士として提供するサービスについての詳細や、依頼のための窓口は新しく開設したウェブサイトでご覧いただけます。興味のある方はこちらをクリックしてください:
市川秀@調剤薬局専門税理士(薬剤師×税理士) | 税理士 (pharmacytaxes.com)

調剤薬局は、取り扱う商品が高単価であるため、一見小さな薬局でも在庫は数百万円に及びます。そのため、在庫の適切な管理と評価は経営に大きな影響を与える要素の一つです。さて、決算時に実施される棚卸しですが、在庫の数量を確認した後、その数量を金額に変換する方法は実は多種多様です。

2. 在庫評価とは?

薬局では、取り扱う製品や材料が高価であり、その在庫量が非常に大きな経済的価値を持つことが多いです。これらの在庫は、一般的に「棚卸資産」と呼ばれ、その価値は業績や税金を含む複数の要素に直接影響を与えます。

在庫評価とは、企業が保有する商品や材料の価値を算出する方法のことを指します。この価値は、販売価格や原価、市場価格等に基づいて決定されます。しかし、これらの価格は常に変動し、そのため在庫の評価も日々変化します。このため、在庫評価は定期的に行わなければならず、その方法も正確であり、公正でなければなりません。

3. 税法上認められている棚卸資産の評価方法

税法上、棚卸資産の評価方法は、以下の8つの方法が認められています。

個別法:商品ごとに個別に価格を付ける方法。品質や状態などにより商品ごとに価格が異なる場合に用いられます。
先入先出法(FIFO):先に入った商品を先に出すと考えて、古い商品から順に評価する方法です。
後入先出法(LIFO):後に入った商品を先に出すと考えて、新しい商品から順に評価する方法です。
総平均法:在庫全体の平均価格を算出し、その価格で評価する方法です。
移動平均法:新たに入荷した商品の価格を加えて平均価格を算出し直す方法です。
単純平均法:在庫商品の各価格を単純に平均する方法です。
最終仕入原価法:最後に仕入れた商品の価格を在庫全体の評価に用いる方法です。
売価還元法:売価から利益を差し引いた価格で評価する方法です。

これらの評価方法は、それぞれ企業の状況や経営戦略により適切な方法が異なります。したがって、適切な評価方法を選択し、適用することが重要となります。これについては、税理士や会計士と相談しながら決定するのが一般的です。

4. 棚卸資産の法定評価方法とは
調剤薬局の在庫評価方法について考察する際、重要な要素となるのが「法定評価方法」です。これは税法上、企業が自由に評価方法を選択するのではなく、税務署への届出がない場合に自動的に適用される評価方法のことを指します。

法定評価方法は、事前に届出を行うことで変更可能ではありますが、一度選択した評価方法は簡単に変更することができないため、評価方法の選択は重大な決定となります。

特に、商品の仕入れ価格が日々変動する業界、そして高価な商品を扱う調剤薬局においては、この評価方法が業績評価に直接的で大きな影響を与えるため、非常に重要なポイントとなります。

5. 経理上の誤解と税務調査時の問題点
税務上の規定を知らずに、たとえば「総平均法」で在庫を評価してしまうと問題が発生します。例えば、商品の平均仕入れ価格を用いて在庫を評価した場合、在庫の価値が実際の仕入れ価格よりも低く評価され、結果として売上原価が過小評価され、利益が過大評価される可能性があります。

このような状況で税務調査が行われた場合、利益の過大申告となり、未納税や誤った税額の申告という形で修正申告や追徴税が発生する可能性があります。

6. 調剤薬局における在庫評価方法の重要性
調剤薬局では、高価な薬品を大量に在庫していることが一般的です。したがって、在庫の評価方法が業績に大きな影響を与えるため、正確な評価方法の選択と適用が不可欠です。

特に、在庫評価方法についての税法上の規定を理解し、適切な評価方法を選択しているかどうかは、税務調査時に問題が発生しないようにするためにも重要なポイントです。誤った評価方法を用いてしまうと、利益が過大に計算され、追加の税金が発生する可能性があります。

したがって、調剤薬局経営者は、在庫評価方法について十分に理解し、その選択と適用に関しては専門家の意見を求めることを強く推奨します。

7. 具体的な計算方法:総平均法と最終仕入原価法
計算方法の違いによって棚卸資産の評価額がどのように変動するのか、具体的に見ていきましょう。ここでは、総平均法と最終仕入原価法を例に取ります。

まず、総平均法では、期間内の全ての仕入れ価格を合計し、その合計を仕入れ数量で割ることで単価を計算します。具体的には以下のような計算になります:

4月1日の在庫:1000個、単価1,000円
6月1日の仕入れ:2000個、単価1,200円
7月1日の消費:1000個
1月1日の仕入れ:2000個、単価1,800円
2月1日の消費:3000個
3月31日の在庫:1000個

この場合、消費単価は(1,000,000円+2,400,000円+3,600,000円)/(1000個+2000個+2000個)で1,400円となり、当期の薬代は1,400円×4000個=5,600,000円となります。

次に、最終仕入原価法では、最後に仕入れた商品の単価を在庫商品の評価に用います。以下の例を見てみましょう:

4月1日の在庫:1000個、単価1,000円
6月1日の仕入れ:2000個、単価1,200円
7月1日の消費:1000個
1月1日の仕入れ:2000個、単価1,800円
2月1日の消費:3000個
3月31日の在庫:1000個

この場合、消費単価は(1,000,000円+2,400,000円+3,600,000円-1,800,000円)/(1000個+3000個)で1,300円となり、当期の薬代は1,300円×4000個=5,200,000円となります。

8. 計算方法による誤差とその影響

上記の計算方法によって現れる誤差は、業績評価に大きな影響を及ぼします。例えば、前述の例では総平均法と最終仕入原価法で当期の薬仕入れ値に40万円の差が生じました。

これは調剤薬局のように在庫が多い業態では特に顕著で、誤った評価方法を選択してしまうと売上原価が実際よりも高くなってしまうことがあります。これにより利益が低く評価され、結果として過少申告となってしまいます。

9. 税務調査と修正申告のリスク
このような過少申告が発覚した場合、税務調査の際に申告漏れと指摘されるリスクがあります。特に法定評価方法を遵守していない場合、税務調査によって評価方法の不備が指摘される可能性が高くなります。

また、申告漏れが発覚した場合には修正申告を行う必要があり、追徴税額が発生することとなります。それだけでなく、信用問題ともなり得るため、棚卸資産の評価方法については慎重に選択し、適切な管理を行うことが重要です。

調剤薬局での在庫が多い事実を鑑みると、棚卸資産の評価方法は経営上の非常に重要なポイントとなります。正確な評価方法を選択し、適切に適用することで、税務上の問題を避け、経営を安定させることができます。是非、この点に注意を払い、成功の道を歩んでください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?