#365日ショートショート by 結騎了 を振り返る~200日記念編~
前回はコチラ。
推しライターが毎日ショートショートを書き続けている件、無事に200日に到達です。ようやってますねえ結騎さん……折り返しを迎え、完走も見えてきた頃でしょうか。
前回が1→100作目だったので、今回は101→200作目を取り上げます。
背景は前回の僕の記事を読んでいただくとして、今回も「巧さに唸った」「おかしくて笑った」「ダークさに震えた」「結騎さんらしさを感じた」「とにかく好き」の5部門で5作品ずつ、感想を記していきます。段々と部門の差別化も曖昧になっていますが……
ちなみに、各作へのネタバレは全開ですのでご注意を。
……とその前に、全体的な感想。
1→100に比べて、101→200の作品群については
「僕的なホームランはちょっと減った」
「打率は上がった」
という印象を持っています。
ホームランというのは、僕が「あれ面白かったよな~!」と思い出すタイプの作品です。こういう作品は1→100、特に初期の頃が多かったなと……これは作品のレベルというより読んだ順番ですね。シリーズ物だとありがちだと思うんですよ、前半の話数が印象に残りがちなの。
ただ101→200は、「そう、これ良かった!」となる割合は高めでした。前回と同じ数の紹介枠に収めたのですが、今回は悩むのも長かったですね……
という訳で、100作から吟味を重ねた5×5作の紹介です。
巧さに唸った、ウィット部門
アイデアや構成に秀逸さを感じた作品たち。
本シリーズではお馴染みの、SNSツイッピピーが題材。
この、信頼できる評論家を探す感覚、非常に身に覚えがあるんですよね。結騎さんをフォローしてる人は大体そうでは。
それをシステム化しようという発想、からの皮肉なオチ。そして専務も田之上氏の理屈に一部賛同しているという、この構造。いいです。
結局ね、好みのキュレーターは足で探すしかないんですよ……「このジャンルの話は面白いけど、他がトガリ過ぎなんだよなあ」みたいな思いを繰り返しつつ……
珍しい理系ネタ。
凝固点降下という化学知識or生活の知恵をトリックに活かす発想もいいですし、、それが活きるシチュエーションも上手い。文の疾走感も楽しいです。
凍る温度を下げれば溶けにくくなる……という案ですが。ちょっと調べてみると、食塩を限界まで溶かせばマイナス20度まで下がるとのこと。結構大きいですね。
「○○になります」という表現を「成ります」に掛けて、ファンタジックに仕上げました。描写の不気味さもいいですね、超現実的な描写も増えてきて嬉しいです。
しかしよく考えると、いくらでも悪用できそうな能力(?)ですよね、「息子に成ります」とか言えば人体錬成できますし。『呪術廻戦』の狗巻を思い出すなど……明太子!
「共犯関係こそ最も強い関係性」概念、好きなんですよね……斜線堂有紀さんの小説でもそういうの読んだかな。
その共犯概念をあまりにディープに描いたのがコチラ。狂った発想が徐々に明かされていく読み味もいいですし、締めが最悪すぎて最高なんですよ。
「ケーキ入刀のようにね」じゃないんですよ!!
ショートショートの旨味の一つに、倫理観を捨てて終われる点があると思うんですよね。続き物だと「このキャラにコレやらせていいか……?」が付きまといますが、ショートショートなら道徳マイナス100点で終わっていい。なんなら人類滅ぼしてもいいですからね。
CMオチ、これは初かな?
僕はあらゆる広告の中でラジオCMが一番好きなんですよね。音声だけを聞きながら「これ、なんのCMだろ?」「……ああ、そういう!」と得心するのが好きで。
その感覚を思い出す作品です。腋の臭さに悶絶する、その読みのトーンまで克明に脳内再生されますね……ショートショートらしいジャンル騙しが上手い。
気持ち良く笑った、ユーモア部門
も~~う大好き、オタクにありがちな「会話がゲームに見える」症候群……え、ありますよね? 僕は研究発表を教授ボスラッシュと呼んでいます。
プレイ経験はないですが、元ネタは遊戯王あたりかな? 「リバースカード」が相手カードに対応して発動しているようですが、それを使ってアプローチへの返しを表現しているのが上手いです。身勝手な男側がやり込められるのもスカッとしますね。
「やっぱりずっとスマホいじってるようなのはダメだな……次!」
アプリの発想自体は賢いな~と思ったのですが、主人公の解決法が上手でしたね……いや下手なのか。納得感と共に爆笑しました。
思考言語が具現化する能力、それで何をやるかと思ったら「生まれたままの姿」ですよ。
そこにヒットするの!?!? って笑っちゃったんですよね。
例えばデートひとつ取っても、彼女の裸を妄想したら脱衣させちゃうとか、「前の人が邪魔だな」で吹っ飛ばしちゃうとか、いくらでも発動タイミングがありそうじゃないですか。
なのに「生まれたままの姿」という暗喩で発動しちゃうの、あまりにも制御が難儀すぎる。結騎さんがどこまで狙ったかはともかく、能力のヤバさと下らなさのブレンドが非常に好きです。
衝撃作『テレパシーの使い手へ』に続く0文字パターン。
『テレパシーの使い手へ』を読んだときに、「けどこのパターン2度は通じないぞ?」みたいに思ってたんですよ、けど素直に笑いました。
「本文がない理由」に対して「人類の祖がやられた」が出てくるの、なかなかのセンスだと思うんですよ。原罪どころの騒ぎではない。
煙草ベンツテンプレの変形、めちゃくちゃ笑いました。生き急ぎが過ぎる……単なる返答なのに最高のオチ。このオチの前振りをぎっちり詰める。
けどこれ、問題文をよく読まずに答案を書き始める……みたいな焦りにも通じる気がして、他人事でもないんですよね。急がば回れ。
苦味に震えた、ダーク編
ダーク系、あるいはアイロニー系といった辺りかな?
どうあがいても絶望……リスという可愛いモチーフでこんな哀しい話、そのギャップ……
しかもリスさん、迂闊に地上に出ると食べられちゃいますからね(闇を増量していく)
僕らみたいなオタクの悪口は止めてくれ(懇願)
今まで好きになった方、もれなく趣味が合った(と僕は思っていた)もので……僕がこういう暴走をしていた可能性ありまくりなんですよね。未来はまだ変えられる……!
あと『邦キチ』の池ちゃんを思い出したのもツボでした。
別に本編が闇とかではないんですよ、「大人が自分のためにケーキを買う」のはホッコリ話ともいえる。
その話のタイトルにカロリーを付けるセンスが!! 絶妙にアイロニー!!
その手のウェブ記事なら『大人だって、自分のためにケーキを買っていい』みたいな優しい題になりそうなものを……まあコチラの方が好きなんですが。
世知辛さエクストリームだから止めてよぉ!!
片道タイムマシンという設定で引っ張ってくるのが!! バブル崩壊からの経済後退!! 平成ロストジェネレーションズFOREVER!! 令和の追い打ち!! 物価高騰2022!!こちとら生まれたときから不景気な20代!!
しかも巻き込まれてるのが『浪漫飛行』ですからね、90年リリースの大名曲……そしてタイトルが『浪漫』なの意地が悪すぎますよ。ねえ?
今日も日本のどこかで起きていそうな、失敗の本質。
結騎さんっぽさを感じた、パーソナリティ編
いわゆる「作家性」とは別の意味の作家読みです。
前回も取り上げた『情報中毒』とも通じるような、ネット中毒者の心境。
いつだったか忘れましたけど、Twitterに障害が起きた後に結騎さんが「マジで不安だった」みたいなことツイートしてた覚えがあるんですよ。分かってしまう僕も僕ですが。
その結騎さんがネットから離れてまで磨こうとした上司の道、僕も新人サラリーマンとして勉強になってます。この基準だと今いる部署は結構いいんですよね、見習いたい。
特撮やアニメで親の声より聞いてきたクリシェな用語「通常兵器が効きません」に対するツッコミ。
分析官の解説がジャンルにおける設定群の概況みたいになっているのも好きなんですよね……敵役が通常兵器で倒されると評判悪いみたいな話も聞きますし、大事なポイントです。
僕が好きなの、「通常兵器で破壊はできる敵だけど」「市民に寄生している・市民が変身した等の理由でやりたくない」「生かしたまま解決するためにヒーローが必要」みたいなのです。ドンブラザーズとかはまさに。
……それはそうと「ノリで報告してノリで頭を抱える」防衛隊、絶対に嫌なんですよね。
もはや日記。10年間も憧れていた車を購入され、いま納車待ちだそうです。今日もソワソワしながら車について調べていたのでは。
『怪獣保険のご利用は計画的に』『見えない怪獣』など、名作揃いの怪獣シリーズ。
過去作も含め、怪獣そのものではなく「怪獣の被害/怪獣という概念、それを利用する人間」の話で、その視点がすごく好きです。
今回もタイムリーに節電ネタ。国策のための自演怪獣、ポリティカル・フィクションのアイデアとしても面白そうですよね……あとネーミング、僕は「多分あれ……だよね!」と調べてから気づきましたが、詳しい人は一瞬で吹いたのでは。
生活の下手なオタク!!!
僕は大学の頃に一人暮らしだったのですが、汗をかく夏場以外は入浴をやたら延ばしがちでした……特に小説書いてるときとか、「んん、ここ書いてから入ろう……ペース崩したくないし……(なのにTwitterを開き出す)」で無限に。
あとシャワーを浴びない理由をこね出すの、ラジオ『アフター6ジャンクション』で宇多丸さんがやる「むしろ○○しない、という選択」を思い出しもしてツボです。
とにかく僕の好み部門
クイズ形式。漢字の一部を穴抜けにする発想、すごく面白かったです……既出かもしれませんが、パズルのフォーマットとしてもっと広がっていい感。けどテキストで作るのも難しそうかな?
漢字には謎の自信とプライドを持ついち亀も、解けるまで睨みました。カクヨムの応援コメントでも正解者いらっしゃいましたね。
#365日ショートショート
— いち亀 (@ichikamefina) April 15, 2022
『文字泥棒』の原文(奪われる前)の推理。https://t.co/Q3pdRlKuQj https://t.co/LtUBolIi0m
フィクションでも論説でも、「よく考えたら人間がこうなってるの変では??」となれるのが好きなんですよ。
生物の進化学みたいなのは全然詳しくないので、なぜ哺乳類が胎生になったのかとかも理解してないのですが、デリケートな仕組みですよね……(一応調べたら面白い記事ありました、本も気になりますね)
あと子育ての精神的なリスクについても、ドライな筆致が好みですね。幼稚園児のパパがこれ書いてるのもメタ的にツボです。
SF×お仕事。走馬灯って確かに「人生の超高速ダイジェスト」的なイメージがありますよね……見たことないので分かりませんが。
……そもそも、誰からも見たと報告されたことないものが、どうしてこんなメジャーに信じられているんですかね?
ともかく、心霊・心理現象の裏に人為的な干渉がある……という世界観はすごく好きです。実際、生前葬のノリで生前走馬灯(という名の再現VTR集)とかできそうではあります。コスパは悪そうですが。
奇抜なアイデアは勿論、文の引力が強くて好きです。ネヌに理性を乱されていく主人公の心理状態も、ネヌの醸す不気味な愛嬌もお見事。
オープンエンド寄りと言いますか、「あれは夢だったのでは」「けど夢でも、感情の変化はリアルなわけで」という解釈の余地も好きです。
タイトルを見て「何やったの?」と訝り、本文を読んで「何やってんの??」と笑いっぱなしだった一作。
160作も書いてると、前はナシだと思っていたこともナシじゃなくなってくるんでしょうね……とはいえ「ラップネタやるか」すっ飛ばして「昔話のラップ版やるか」になるのもだいぶ斜め上ですが。
聴こえる……遅めのBPMの中に和楽器サンプリングが効いて、チルいんだけど物悲しくもあるビートが……フックのシンガロングが……爺さんと姫のセリフの微妙にギャグっぽい声真似が……(幻聴) https://t.co/9a3i8ZPI7k
— いち亀 (@ichikamefina) June 14, 2022
「娘/さだめ/雀/新芽」とか、「昔/をかし/溶かし」とか、このネタだからこそな韻もあるな~と思いつつ、サビの字脚どうなってるんだろな~とか悩みつつも脳内再生(作曲?)を試みたりしていました。全く意味のない脳の使い方、それがいい。
Ayo, 毎日の散文、旅はまだ半分、発奮して筆を執る君にthank you.
……ごほん。
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今回も25作ピックアップ、まとめ直すとやはり楽しかったです。
ここから165作もドンドン良いところ見つけていきたいですね。じか~い次回はどんなお話でしょう……結騎さんファイトです!