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【6】かぐや姫の憂うつ (短編小説)
6:早すぎる知らせ
妙な視線を感じてから数日後。
かぐやは自室で着替えをしていた。
ビョウブの外からヨウが声を掛ける。
「大主様より伝言です。至急、姫様に伝えたいことがあると」
「…分かったわ」
かぐやの準備が終わるか終わらないかのうちに、ゴテンの主人がやってきた。
「おトウ様、そんなに興奮されてどうされましたの」
「かぐや。大変だ!」
「大変?」
「帝がそなたに、お会いされるということじゃ!」
かぐやは驚いた。
ミカドがかぐやに会うという内容にではなく、その知らせがあまりにも早かったからである。
かぐやの予想では、あと三カ月はかかる予定であった。
「そなたの評判が都で広まっているのは、求婚の多さで知っておったが、まさかここまでとは。本当に、なんと光栄なことだろう」
「おトウ様、詳しくお話を聞かせてくださいな」
老いたチチオヤは出されたお茶を一気に飲み干すと、興奮気味に言葉を続けた。
「今しがた、朝廷から使者の方が来られてな。今度開かれる祭で、帝が輿に乗って都を見て回られる。その際に、このあばら家にお立ち寄りくださるとのことだ」
「まあ、満月祭のときに?」
満月祭は、年に数回、開かれる。
夕方から夜にかけて行われ、満月を愛でながら人々はみな、食べたり、飲んだり、歌ったり、踊ったりするのだ。
浮かれ騒ぎの隙に、こっそり想い人に会いに行く若者も多いと聞く。
しかし、今回の場合は「こっそり」とは言い難いだろう。
「帝は、公式に、我が家を訪れてくださるのですね?」
かぐやは「公式に」という言葉を強調して確認した、
ミカドの輿は、嫌でも目を引く。
昼間に使者を、しかもゴテンの主人によこしたことから考えても、公式な訪問であると考えていいだろう。
「そうじゃ!だから、もし、そなたが気に入られたら…側室になれる!」
「ソクシツ、ですか」
「ああ。うん?どうした、かぐや?」
「いいえ。満月祭は、いつだったかしら?」
かぐやが問うと「3日後です」と、ヨウがすかさず答えた。
「すぐに準備をしなさい。帝がお相手なら、そなたでも拒否できないよ」
老いたチチオヤは娘の顔色を窺うように言った。
かぐやは彼に心配をかけていることを申し訳なく思い、「分かっていますわ」と大人しく頷いて見せた。
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