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【11】かぐや姫の憂うつ (短編小説)
11:オトコたちの心理
ヨウは東屋から少し離れた草むらに隠れ、二人の様子を見つめていた。
大主人からの命令もあったが、それ以上に二人のことが気になっていても立ってもいられなかったのだ。
月の宮に来る前の、かぐやの言葉が頭から離れない。
『何が起こるかなんて、分からない。でしょ?』
ヨウは身体の内側から、熱いものが込み上げてくるのを感じた。
もし、かぐやに何かあったら。
いや、彼女から仕掛けてミカドがそれに応えてしまったら。
自分がどうなってしまうのか、分からない。
ヨウは視線を東屋に向けたまま、手のひらを固く握った。
目の前の出来事に集中していたため、近くを白いネコ(猫)が通ったことにも気づかなかった。
*
ミカドは違和感を感じていた。
こんなに美しい女が、本当にこの世にいるのだろうか。
もしかしたら妖の類かもしれない。
そうでなくてもミカドという地位から生まれる権力欲しさに、近づいてくる輩はごまんといる。
自分に害をなす恐れのある者は、できる限り早く排除した方がいい。
まずは、彼女の真意を探ろう。
ミカドは咳払いを一つすると、沈黙を破った。
「この美しい建物は、いつから建っている?以前、訪れたときは無かったはずだが」
このゴテンの前の持ち主はミカドの遠い親戚で、幼い頃一度訪れたことがあった。
代替わりしてからは、別の貴族の手に渡ったと聞いている。
「はい。この建物自体は以前の持ち主が建てたのですが、近ごろ私のチチが修繕いたしました。月の宮、という名です」
「ほう。月の宮とは、美しい名だ。そなたのようだな」
ミカドは流し目でかぐやを見た。
恥ずかしそうに扇子の裏に顔を隠す仕草は、可憐な乙女のよう。
だからこそ疑惑が深まる。
すぐに疑ってかかるのは自分の悪い癖だと思いつつ、ミカドはかぐやに問いかけた。
「何人もの貴族が、そなたに求婚を断られたと聞いた。本当か?」
「はい」
詫びれる様子が一切感じられない。
ミカドは少し驚いた。
「それは、そなたの意志か?それとも、そなたの親の意向か?」
「私の意志でござます」
ミカドはまた驚いた。
それから、楽しくなった。
「意志」とはっきり口にする姫に会ったのは初めてだ。
ミカドは自分では気づかず口角を上げた。
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