見出し画像

【5】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

5:感じる視線

ヨウが部屋を出た後、かぐやは再び床に身体を投げ出した。

ジュウニヒトエ(十二単)という服は、肩がこる。

着ている衣を上から順に無造作に脱ぎ捨て、ハダギ(肌着)だけになってから、やっと目をつぶった。

遠くでカラスの声が聞こえる。

畳の継ぎ目が、布越しに伝わって気持ちいい。

「ああ、幸せ」

キゾクの姫が一人になれる時間はあまりない。

かぐやは深呼吸して、貴重な時間を味わった。

部屋の外には色とりどりの花が咲き、彼女の目を楽しませた。

今は紫陽花が美しい季節だ。

二週間もすれば、朝顔が咲き誇るようになるだろう。

かぐやの部屋から見える庭には、彼女が家にいても季節を楽しめるようにと、老いたフウフが様々な花や木を植えていた。

かぐやの美しさがまだ世に知れ渡る前は、自由に外を出歩くこともできたし、ヨウと共に山を駆け回ることもできた。

しかし大人になり、かぐやの美しさが増すにつれ、自由は奪われていった。

かぐやはそのことに、月では感じたことのない気持ちを時々感じる。

胸の奥が締め付けられるような、行き場のない感情。

あのままヨウとともに兄弟のように楽しく暮らせていたら、と想像することもあった。

そういう時は決まっていつも、任務の存在が彼女を現実に引き戻した。

かぐやたち月人は、千年に一度月から地球へと降り立ち、ニンゲンのオトコと交わる。

この月人生存計画の任務に就けるのは、月人の中でも選ばれた者のみだ。

ふと、視線を感じてかぐやは花々の方に目を向けた。

目を凝らすと、塀の向こうからこちらを覗く目がある。

どうやら、壁には小さな穴が開いているらしい。

しまった、と思ったときには、もうその目は消えていた。

+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+

ご感想はLINE公式または、画面下部の「クリエイターへのお問い合わせ」からお待ちしております。

#創作大賞2024
#ファンタジー小説部門

いいなと思ったら応援しよう!

蒼樹唯恭
あなたの応援が、私のコーヒー代に代わり、執筆がはかどります。