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ブロッコリーのマヨネーズ和え

ブロッコリーは色こそきれいだが、味はあまり好かない。

お弁当にブロッコリーのマヨネーズ和えを詰めていた理香子は、悟の言葉を思い出したが、すぐにもうひと房ブロッコリーを追加した。

なんか、お母さんって感じ。

先日、鏡の前に座って化粧をする理香子の後ろ姿をまじまじと見ながら、悟は言った。

「お母さんみたい」という婉曲的な言い方ではあったが、理香子は悟が何を言わんとしているかとっさに理解した。

理香子はもともと華奢で、女性らしい服装が似合うことを内心、自慢に思っていた。

デートや合コンのときは、必ずノースリーブのニットとフレアスカートを着て臨んだし、仕事でも身体のラインが美しく見える服装を好んだ。

しかし、35歳を過ぎてそれが変わった。
身体を包み込むこような、流行のゆったりしたシルエットの服に目が行くようになり、実際そうしたものがワードローブを占めるようになった。

太ったというわけじゃない。
身体のあちこちが丸みを帯び、重力に引っ張られるように垂れ下がり始めたのである。

肩はなだらかになり、背中の肉が下着からうっすら盛り上がるようになった。
二の腕などは、20代後半から徐々に下側がふくらんできたように思う。

いや、思うのではなく、確実にそうなのだ。

自分自身がそれを分かっているからこそ、悟の何気ない言葉に思いの外、深く傷ついていた。

理香子は菜箸を手に持ったまま顔を上げると、ひと呼吸した。
そして再び、ブロッコリーを詰め始める。

今度のは特大だ。

きっと、悟は驚くだろう。
弁当箱はブロッコリーで埋め尽くされていた。

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蒼樹唯恭
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