オムライスの卵
「俺は、薄焼き卵が好きなわけ」
山崎は向かいに座る斎藤に詰め寄った。
「分かった。でも、俺に言ったってしょうがないだろ。千和ちゃんに直接言えよ」
斎藤は大学の食堂で大声を上げる山崎と距離を取るべく、素早く残りの食事を平らげた。
しかし席を立とうとした瞬間、その腕はがっちりと山崎に掴まれる。
「直接なんて言えるわけないだろ!千和は怒ると怖いんだ。それに千和とはもう別れたから言えない」
「だったら、その話もうどうでもいいじゃんか」
「良くない!俺は世の女子に言いたい。店に出てくるような半熟卵をオムライスに望むのは、お前ら若い女だけだ。俺ら男は、薄焼き卵が好きなんだよ!」
食堂にいた他の学生の目が一斉に二人に注がれる。
斎藤は慌てて山崎の腕を外しにかかったが、山崎の力は存外強くなかなか外れない。
「離せよ!」
「嫌だ!斎藤、お前には分かって欲しい」
「分かったってば。俺も薄焼き卵が好きだ。だから、この手を離してくれ」
「本当か?」
「ああ。俺も薄焼き卵派だ」
「良かった。斎藤、お前、千和と付き合ってるだろ」
斎藤は山崎を見つめたまま固まった。
「千和にちゃんと言えよ。お前は薄焼き卵が好きだって」
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