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【13】かぐや姫の憂うつ (短編小説)
13:花愛君の暗躍
満月祭から一週間が過ぎた。
その間、かぐやとミカドは頻繁に手紙のやり取りをしていた。
手紙を届けるのはヨウの仕事だ。
ミカドの住まいがあるゴテンの庭で鬱々とした気持ちを抱えたまま、ヨウは手紙を待っていた。
ミカドはいつも手紙を友人である花愛君に託す。
彼が来たことは見るよりも先に香りで分かった。
花のような甘い香り。
どこか人をくつろがせるような、柔らかく、繊細な香りだ。
いつもならその香りで彼が来たことが分かるのだが、考え事をしていたヨウは気づかなかった。
突然声を掛けられ、ヨウは慌てて地面から視線を上げた。
「ご苦労様です。これ、今日の手紙」
そう言って花愛君が手渡してきた手紙は、薄紫でヨウの知らない花が添えられていた。
手紙を手にしたヨウはすぐにその場を去ろうとしたが、後ろから声を掛けられ立ち止まる。
「君は、姫が好きなんだね」
ドキッとして立ち止まり振り返ると、笑顔の花愛君と目が合う。
「…どういう意味でしょうか?」
「そのままの意味だよ。でも、このままだと結ばれない」
ヨウはじっと花愛君を見た。
何の目的で話しかけてきたのか。
花愛君ほど高位の者が自分のような者に声を掛けるのは、仕事を命じるときだけだ。
何か裏があるのかもしれない。
ヨウは下手に喋らない方が良いだろうと判断し、口を閉じた。
そんなヨウをよそに、花愛君は一方的に話し続けた。
「奪っちゃえばいいのに」
「…は?」
思わず口をついて出た言葉に、ヨウはうろたえた。
「もっ申し訳ありません…!」
今さら謝っても遅いだろうが、謝らずにはいられない。
冷や汗が全身を流れる。
ヨウの焦りとは対照的に、花愛君は声を上げて笑った。
呆然とするヨウを横目に、ひとしきり笑った花愛君は満足した様子だ。
「ごめんね」
「いえ…それより、あなたは帝のご友人ではないのですか?」
友人の恋敵にけしかけるような言葉をかけるなど、ヨウには理解できなかった。
「そうだよ。でも、僕にはもう一つ大事な役目があってね」
花愛君は意味深な表情をヨウに向けた。
ヨウは居心地の悪さに思わず視線を外す。
短い間沈黙が落ちた。
「君が先に姫と結ばれてくれたら、ミカドも手を引くだろう」
「俺が?まさか、あり得ません」
「なぜ?君がキゾクではないから?」
「はい。それに…」
言いかけて、ヨウは口を噤んだ。
それを見た花愛君は、また面白そうなことを見つけたと内心ほくそ笑み、ゴテンの中に消えた。
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