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【4】かぐや姫の憂うつ (短編小説)
4:狙いは大物
「もう少し、お優しくしては?あまり冷淡過ぎると、姫様が恨まれます」
ヨウは控えめに、自分の主であるかぐやに進言した。
「優しくって、どうやって?」
「雷を持って来いなどと、無理難題なことを言わないだけでも、十分かと」
「ふん。そんな態度で、あの傲慢な奴らが引くとは思えないわ。恥をかく前に、さっさと諦めなさいと親切に教えてあげているのよ」
「しかし、以前いらした本虫君(ほんむしのきみ)は、本当に、うどんげの花を探しに行ったらしいですよ」
「あら、まあ。バカだとは思ってたけど、本当にバカだったのね。勉強ばかりして実地が足りないお坊ちゃんには、ちょうど良いんじゃない。あの花は、海の向うにある大きな大陸に咲くらしいから、船旅でもして経験を積んだら」
「姫様…」
ヨウは呆れて口をつぐんだ。
「それより、例の件はどう?」
かぐやは今朝、来たばかりの手紙をつまみながら、ヨウに尋ねた。
手紙の内容は見なくても分かる。
送り主は、脛齧君(すねかじりのきみ)。
チチオヤ(父親)は政界の重鎮、ハハオヤ(母親)は先のミカドの娘という、キゾクの中でもかなりの高位に位置する。
上に兄が二人いるため背負う責任もしがらみもなく、成人を迎えて随分経つが専ら遊んで暮らしているという噂だ。
結婚もしていないため、大方、家族にそろそろ身を固めろとでも言われたのだろう。
かぐやは、つまんだ手紙をそのまま屑籠に放り投げようとした。
「姫様!いくら何でも、それはいけません。脛齧君は、竹取家よりも高位。あとで困るのは、大主様や奥方様ですよ」
「…分かったわよ」
かぐやは、渋々、手紙を文机の上に戻した。
大主様や奥方様─育ての親のことになると、かぐやは弱い。
もちろん、ヨウも彼らには絶対の忠誠を誓っている。
しかし、ヨウが真に仕えているのはかぐやだけだ。
ヨウは大火事の中、かぐや達の手により助け出された。
彼はもともと孤児だ。
ある寺で他の孤児たちと一緒に保護されていたところ、その寺が火事になり、偶然通りかかったかぐや達に助け出されたのだ。
かぐやがヨウと初めて会ったとき、彼は燃え盛る寺から死に物狂いで逃げ出して、地面にうずくまっていた。
全身火傷だらけのヨウと目が合ったとき、かぐやは直感で彼を助けることを決め、ヨウもまた、その日から彼女だけに仕えることを決めた。
ヨウは文机に向かうかぐやの背中に向かって言った。
「例の件ですが、順調です。なにしろ、姫様の美しさは世に知れ渡っております。帝の耳に届くのも、時間の問題かと」
「そう」
かぐやは大きく開かれたミスの隙間から外を見た。
ミカド(帝)は、かぐやたちが住む島国を統べる王だ。
今のミカドは、大層オンナにモテると聞く。
年齢は30歳前後、見目麗しく文武両道。
そんなオトコであれば、オンナやオンナの家族が放っておくはずがない。
唯一の欠点は、後継ぎがいないことだ。
現在いる子どもは二人、どちらもオンナである。
それぞれセイシツ(正室)とソクシツ(側室)の子ではあるが、この国では原則オンナに継承権はない。
「ミカドはまだ若いけれど、周囲は焦りを感じ始めているはずよ。先ごろも、北の地域で反乱が起きたというし、後継ぎを作っておくのは早ければ早いほど良い」
「ええ。噂によると、セイシツとソクシツのあいだで激しい応酬が繰り広げられているとのこと。帝はそれに嫌気が差して、最近はあまりお二人のもとを訪れないと聞いています」
「まぁ、好機ね」
かぐやは上機嫌に答えた。
「オトコはいがみ合うオンナを好まない。そんなこと、なぜ同じ人間同士で分からないのかしら?」
かぐやは心底、不思議そうに呟いた。
「同じだからこそ、分からないのではないのでしょうか。あるいは、分ろうとしていないだけなのかもしれません」
私は部外者だからこそ、分かるということね。自分とは違う者を理解しようとする姿勢があるのでしょう」
「…そういった発言は、外ではお控えください」
ヨウはかぐやが人間ではなく、月人だと知っている。
もちろん来訪の目的も。
「はいはい」
かぐやはおざなりに頷くと、ヨウを部屋から追い出した。
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