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【3】かぐや姫の憂うつ (短編小説)
3:ひっきりなしの求婚
数ヶ月後、かぐやは文字通り大きくなった。
人間の手のひらサイズだったのが平均的なコドモと同じぐらいの背丈になり、黒く艶やかな髪は腰まで伸びた。
フウフはその成長の早さに度肝を抜かれたが、長らくコドモがいなかったこともあり、より一層彼女を大切に育てた。
彼らがかぐやを大切にした理由は他にもある。
彼女がフウフと出会う前に待機していたタケやその周りのタケから、コバンがザクザク出てきたのだ。
この島国では、コバンがあれば欲しいものが何でも手に入り、面倒な仕事を他のニンゲンに頼むことが出来た。
フウフはコバンを持ち帰って金持ちになり、かぐやを天の遣いだと言って崇めた。
さらに数カ月後。かぐやは美しい大人のオンナへと成長した。
「まるでこの世のものとは思えない」
そう称賛される度彼女は肝を冷やしたが、フウフはとても喜んだ。
かぐやの評判がパッと世の中に広がる頃には、フウフはキゾクになって立派なゴテン(御殿)を持ち、より多くのニンゲンを働かせるようになった。
*
山の向こうに、夕日が沈む。
かぐやは橙色の光を全身に浴びて、次々と訪れる来客に対応していた。
彼女やフウフが住むゴテンは、この島国特有の造りになっており、柱はあっても壁がない。
天井は低く、部屋は広く、間仕切りにはミス(御簾)やキチョウ(几帳)、ビョウブ(屏風)などが使われる。
今かぐやが座る場所も、ミスという大きな布のようなもので来訪者から隠されていた。
かぐやはあくびをかみ殺して、側仕えの少年に尋ねた。
少年はヨウと言って、実際は青年と言っていいほどの年齢だ。
幼く見えるが、しっかりした性格で、いつも彼女の手足として忠実に働いていた。
「ヨウ、外の様子は?」
「あと、お一人です」
それを聞いて、かぐやは大きくため息をついた。
頼みもしないのに、毎日、様々なニンゲン(特にオトコ)が彼女に会いに来る。
自ら動かずともオトコがやって来るのは助かるが、数が多すぎる。
任務のためだと自分に言い聞かせてみても、連日こんな状態であったから、かぐやはほとほと疲れていた。
かぐやは両方の目頭を強く揉んだ。
「…別の日にしてもらえるよう、お願いしますか?」
「いいえ、通して」
ヨウは頷き、別室で待つ来客を呼びに部屋を出た。
*
新しく入ってきたオトコは、きらびやかな衣服を着て、腰に見事な飾りをつけていた。
しかし、身体の線が細く、完全に服に着られている。
オトコの顔にはやつれ、目だけが爛々と光っていた。
「はっ、はじめ、まして…私、骨皮君(ほねかわのきみ)と申します…っ。あなたのような、うっ、美しい人に、おあいできて…こっ、光栄で…!」
最後は言葉にならず、消えた。
オトコの紅潮する顔を簾越しに見て、かぐやは今日何度目かののため息をついた。
このオトコでは確実に、ない。
かぐやに直接会えるのは、キゾクの中でも「選ばれた」者だ。
この島国で任務にあたっている月人はかぐやだけではない。
タケにコバンを仕込むことから、出世に役立ちそうなニンゲンへの口利き、ムコ候補選びまで、全て同僚の働きによるものだった。
「これだけやっても、まだ…」
かぐやは内心で舌打ちした。
今まで多くのオトコに会ってきたが、どのオトコも彼女の求める条件を満たさなかった。
月人が持ち帰るものは、セイシであれば何でも良いわけではない。
「優秀な」遺伝子を持ったセイシでなければいけないのだ。
かぐやが会ってきたキゾクのオトコたちは学識は高いが、彼女から見て優秀とは言えず、傲慢で、あしらうのが大変だった。
目の前にいる骨皮君もご多分に漏れず、である。
家柄は申し分ないし、裕福。
他のキゾクたちに比べて傲慢ではない、と言えなくもない。
しかし、身体が弱いことが、かぐやにとっては致命的だった。
体つきや肌の状態から判断して、骨皮君はいくつかの病気にかかっている。
それもおそらく先天的に。
だから、遺伝子を得たとしても、丈夫な個体に育つ可能性は低いのだ。
計画上、セイシを有するオトコが健康であることは、必須の条件だ。
計画―月人生存計画を成功させるためには、キゾク以外のオトコも対象に入れる必要があるだろう。
かぐやはパチンッと扇子を閉じると、ミスの向こうで控えているヨウに視線を送った。
骨皮君は緊張のためか、そのやり取りに気づかず、顔を真赤にして話を続けている。
「御簾越しではありますがっ、あなたの、ひっ光り輝く、美しさは…ま、まぶしいばかり。
しかし、少しでも、お顔を見せていただけたら…!」
細い身体に力が入り、それを包む服が大きく揺れる。
「まあ、私よりもまぶしいものは、他にもありますわ」
「は、はぁ…でっですが…」
食い下がる骨皮君に、かぐやは言った。
会う、つまり、オンナがミス越しではなく顔を見せるということは、キゾクの世界ではケッコンを意味する。
ケッコンは通常、自分たちの一族を繁栄させる目的で行われるものだ。
「そうよ、雷!」
かぐやは大げさに手を打った。
「天を裂くように輝く、雷を私にくださいな。そうすればお会いしましょう」
「え、雷、ですか?しかし、雷を持ち帰るなど…」
かぐやは骨皮君の言葉を最後まで聞かず、「お待ちしていますわ」と一言告げて部屋を出て行った。
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