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短編小説

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・料理 × ショートストーリー ・『星の約束』シリーズ など短編小説をまとめています。
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#星の約束

『星の約束』a-1.スピカ

☆前回までのストーリー☆ 時子がプラネタリウムの重い扉を開けると、なかにはすでに数人の客がいた。 子ども連れや高齢の男性、大学生らしいカップルがお互い間隔をあけて座っている。 座席は部屋の中央にある黒い機械を取り囲むようにして、円状に幾重にも並んでいた。 そのバームクーヘンのような並びの座席のひとつに腰を下ろし、隣の座席にコートとカバンを置いた後、座席に深く腰掛ける。 思ったよりも良い座り心地に満足感を覚え、 身体をより深く沈めていくと、リクライニングシートになっている背

『星の約束』ープラネタリウム

田舎の大きな公園の中にあるプラネタリウム。 外観はひどくさびれているが、入口近くに立てられた掲示板には真新しいチラシが貼られている。 チラシには今月のプログラムという大きな文字が印刷され、その下に小さな文字で<春の星座>、<星座にまつわる神話>と書かれていた。 時子は少し屈んでプログラムの開始時刻を確認した後、顔を上げドーム状の屋根を仰いだ。 不意に風が吹き、白いワンピースの裾が揺れる。 もう4月も半ばだというのに風は冷たく、朝晩には薄手のコートが要るほどだ。 時子は薄手