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短編小説

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・料理 × ショートストーリー ・『星の約束』シリーズ など短編小説をまとめています。
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2024年5月の記事一覧

【1】かぐや姫の憂うつ (短編小説)note創作大賞2024

1:地球へ ピピッ、ピ…ピピ…ピ…ッ…ブーブーブー。 ジ、ジジ、ジジジッ…ジジッ…ジジ…。 『▶‘$))~!』 『=|%&””・>>』 目の前の画面に次々と記号が表示される。 『%・>*+」「α』 通信時間は限られているから、本部への報告は簡潔かつ的確にしなければならない。 M-10009は早口で画面に話しかける。 「目的地に到着。地球、海に囲まれた島国。固有植物であるタケが密集する地域。現在、タケの中で待機中」 「この後ニンゲンと接触し、任務に移る。任務遂行

【2】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

2:かぐや姫の任務 目が覚めたとき、M-10009は人間の手の中にいた。 人間は、M-10009を手のひらに収められるほど大きい。 M-10009は身体をあえて小さくしていたのだが、それは目の前にいるニンゲンが自分を見つけるまでタケの中で待機するためだ。 竹を取って生活するこの人間が、地球におけるM-10009のヨウイクシャになることは、事前調査の段階で決まっていた。 M-10009はすぐにこのニンゲンの住居に連れ帰られ、「かぐや」と名付けられた。 * 数日後。

【3】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

3:ひっきりなしの求婚 数ヶ月後、かぐやは文字通り大きくなった。 人間の手のひらサイズだったのが平均的なコドモと同じぐらいの背丈になり、黒く艶やかな髪は腰まで伸びた。 フウフはその成長の早さに度肝を抜かれたが、長らくコドモがいなかったこともあり、より一層彼女を大切に育てた。 彼らがかぐやを大切にした理由は他にもある。 彼女がフウフと出会う前に待機していたタケやその周りのタケから、コバンがザクザク出てきたのだ。 この島国では、コバンがあれば欲しいものが何でも手に入り

【4】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

4:狙いは大物 「もう少し、お優しくしては?あまり冷淡過ぎると、姫様が恨まれます」 ヨウは控えめに、自分の主であるかぐやに進言した。 「優しくって、どうやって?」 「雷を持って来いなどと、無理難題なことを言わないだけでも、十分かと」 「ふん。そんな態度で、あの傲慢な奴らが引くとは思えないわ。恥をかく前に、さっさと諦めなさいと親切に教えてあげているのよ」 「しかし、以前いらした本虫君(ほんむしのきみ)は、本当に、うどんげの花を探しに行ったらしいですよ」 「あら、ま

【5】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

5:感じる視線 ヨウが部屋を出た後、かぐやは再び床に身体を投げ出した。 ジュウニヒトエ(十二単)という服は、肩がこる。 着ている衣を上から順に無造作に脱ぎ捨て、ハダギ(肌着)だけになってから、やっと目をつぶった。 遠くでカラスの声が聞こえる。 畳の継ぎ目が、布越しに伝わって気持ちいい。 「ああ、幸せ」 キゾクの姫が一人になれる時間はあまりない。 かぐやは深呼吸して、貴重な時間を味わった。 部屋の外には色とりどりの花が咲き、彼女の目を楽しませた。 今は紫陽花

【6】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

6:早すぎる知らせ 妙な視線を感じてから数日後。 かぐやは自室で着替えをしていた。 ビョウブの外からヨウが声を掛ける。 「大主様より伝言です。至急、姫様に伝えたいことがあると」 「…分かったわ」 かぐやの準備が終わるか終わらないかのうちに、ゴテンの主人がやってきた。 「おトウ様、そんなに興奮されてどうされましたの」 「かぐや。大変だ!」 「大変?」 「帝がそなたに、お会いされるということじゃ!」 かぐやは驚いた。 ミカドがかぐやに会うという内容にではな

【7】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

7:作戦会議 「さあ、どうしたものかしら」 かぐやはチチオヤがいなくなった部屋で、ハダギにウチカケ(打掛)というラフな格好になり、あぐらをかいた。 向かいに座るヨウが思わず目を逸らす。 しかし、かぐや自身は全く気にしていない様子だ。 「予想より早いですが、首尾よく進んでいますね。これで、帝の側室になれれば、姫様の目的は達成されるではありませんか」 ヨウは視線を逸らしたまま抑揚のない声で言った。 「そうとも言い切れないわ。ミカドが条件に適うオトコかどうか、私の目で

【8】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

8:噂の真偽 かぐやのチチオヤが、ミカドから便りをもらう数日前。 「それで、どうだった?」 ミカドは待ちきれないと言わんばかりの表情で、目の前に座る花愛君(はなめづるきみ)に尋ねた。 花愛君はミカドの腹違いのオトウト(弟)であり、アニ(兄)の命を受けミカドのゴテンに偵察に行っていた。 「噂にたがわぬ美しさでございました」 「本当か?この世の噂ほど、信用できないものはない」 ミカドは慎重な性格だ。 「お前を疑っているわけではないが、娘の美しさは、親たちが良い縁談

【9】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

9:満月祭 ミカドからの便りを受けて三日後、満月祭。 ヨウは部屋の外で、かぐやの支度を待っていた。 ヨウかぐやと出会って、もう三年近くになる。 出会った当時、かぐやは四、五歳ほどに見えた。 しかし、たった数か月で彼女はみるみる成長し、今は立派な大人のオンナにしか見えない。 この家に仕えるようになってから、ヨウは目の前で起こった「奇跡」を淡々と受け入れてきた。 かぐやの異常な成長スピード、大主人がタケを切る度に湧いてくるコバン、竹取家が手にしたキゾクという地位―そ

【10】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

10:月の宮 ざわめきが一層大きくなった。 それから静寂が訪れる。 同時に、門を叩く音がゴテン中に響いた。 月の宮に一人座るかぐやも、その音を聞いた。 折しも、空の色が濃くなる頃。 黄昏時は終わりを迎えつつあった。 かぐやは頭から被った薄い布を被り直した。 布は細い糸で織られた特注品で、光を受けるときらきら輝く。 月の光が地上に届く頃には、神秘的に見えることだろう。 かぐやは心の中でチチオヤに感謝した。 この布にいくら使ったのだろうか、という疑問は紺色に

【11】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

11:オトコたちの心理 ヨウは東屋から少し離れた草むらに隠れ、二人の様子を見つめていた。 大主人からの命令もあったが、それ以上に二人のことが気になっていても立ってもいられなかったのだ。 月の宮に来る前の、かぐやの言葉が頭から離れない。 『何が起こるかなんて、分からない。でしょ?』 ヨウは身体の内側から、熱いものが込み上げてくるのを感じた。 もし、かぐやに何かあったら。 いや、彼女から仕掛けてミカドがそれに応えてしまったら。 自分がどうなってしまうのか、分からな

【12】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

12:3つの焦り その後二人はしばらく話をしたが、結局「何事もなく」ミカドは帰った。 その後ろ姿を見送って、ロウフウフ(老夫婦)は今後の動向を思ってヤキモキし、ヨウは安堵した。 かぐやはまだ月の宮にいて、空を見つめている。 「姫様」 ヨウは恐る恐る声をかけた。 「…何?」 振り向いたかぐやの顔は月明かりに照らされ一層美しい。 しかしその表情には様々な感情が混ざりあっているように見えて、ヨウは再び胸をざわつかせた。 * かぐやにとって、怖いと感じたニンゲンは

【13】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

13:花愛君の暗躍 満月祭から一週間が過ぎた。 その間、かぐやとミカドは頻繁に手紙のやり取りをしていた。 手紙を届けるのはヨウの仕事だ。 ミカドの住まいがあるゴテンの庭で鬱々とした気持ちを抱えたまま、ヨウは手紙を待っていた。 ミカドはいつも手紙を友人である花愛君に託す。 彼が来たことは見るよりも先に香りで分かった。 花のような甘い香り。 どこか人をくつろがせるような、柔らかく、繊細な香りだ。 いつもならその香りで彼が来たことが分かるのだが、考え事をしていたヨ

【14】かぐや姫の憂うつ (短編小説)

14:かぐや姫の憂うつ ある真夜中。 かぐやは一人、文机に向かっていた。 といっても、手紙を書くためではない。 考え事をするためだ。 目下の問題は、ソクシツにならずにミカドの子を宿すにはどうすれば良いか、ということである。 手紙のやり取りを通じて、ミカドが自らの責務に対して忠実であることが分かり、かぐやは好印象を持った。 自身も使命を背負っている身として、共感と親しみを覚えたのだ。 ミカドも自分に好意を抱いているらしい。 「できれば、合意の上で子どもを宿した