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短編小説

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・料理 × ショートストーリー ・『星の約束』シリーズ など短編小説をまとめています。
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2021年10月の記事一覧

『星の約束』a-2.スピカ

☆前回までのストーリー☆ すると、妙な事が起こった。 ぼんやりと輝く光の粒のなかで、スピカだけがチカチカと瞬いているのだ。 その青白い輝きは最初、一定の間隔を開けて瞬いているようだった。 しかし、徐々にその間隔は短くなり激しく明滅し始めたかと思うと、最後に大きくピカッと光って消えた。 一瞬の出来事。 時子は目をしばたかせ、もう一度スピカがあった場所を見た。 そこには、ぽっかりと暗い空間が出来ている。 まるで最初から何もなかったかのように。 時子は呆然としてしばらくそこを

『星の約束』a-1.スピカ

☆前回までのストーリー☆ 時子がプラネタリウムの重い扉を開けると、なかにはすでに数人の客がいた。 子ども連れや高齢の男性、大学生らしいカップルがお互い間隔をあけて座っている。 座席は部屋の中央にある黒い機械を取り囲むようにして、円状に幾重にも並んでいた。 そのバームクーヘンのような並びの座席のひとつに腰を下ろし、隣の座席にコートとカバンを置いた後、座席に深く腰掛ける。 思ったよりも良い座り心地に満足感を覚え、 身体をより深く沈めていくと、リクライニングシートになっている背

『星の約束』ープラネタリウム

田舎の大きな公園の中にあるプラネタリウム。 外観はひどくさびれているが、入口近くに立てられた掲示板には真新しいチラシが貼られている。 チラシには今月のプログラムという大きな文字が印刷され、その下に小さな文字で<春の星座>、<星座にまつわる神話>と書かれていた。 時子は少し屈んでプログラムの開始時刻を確認した後、顔を上げドーム状の屋根を仰いだ。 不意に風が吹き、白いワンピースの裾が揺れる。 もう4月も半ばだというのに風は冷たく、朝晩には薄手のコートが要るほどだ。 時子は薄手

サラダは料理ですか?(改)

時刻は17時。外はまだ昼間の暑さを残したままだ。 私(桜・さくら)は仕事用のリュックサックを背負い、空いた両手で買い物袋を持ちながらアパートの古びた階段を上り切りった。額から汗が流れて首筋を濡らしたが、両手がふさがっているのでどうしようもない。部屋の前までたどり着いたときには、汗の筋は3本になっていた。 私の部屋、と言っても二人暮らしだから正確には私たちの部屋なのだが、は築15年のアパートの2階にある。アパートは駅からもスーパーからも遠いが、1LDKでそこそこ広く大人2人