もう1人の自分を知った日
最近またアムカをしてしまおうと
あちら側に落ちてしまおうと
涙を流す私がいる。
あの頃が懐かしい。
何も気にならなかった。
将来も夢も何もなかった。
だから
傷がどうだろうと
自身がどうなろうと
なんだってよかった。
心配する人なんていない
感謝する相手はいない
なにも躊躇う理由がなかった。
あれから私は変わってしまい
そうもしていられなくなった。
心配してくれる人に気付き
感謝することを覚えた。
知らなければよかったと思う。
僕の母は勝手な人だった。
ネグレクトをし
時には暴力を振るい
時には暴言を吐いた。
弱かった。
ただただ
全てを体と心で受け止めるしかなかった。
傷だらけだった。
切り傷をつけたところで目立たなかった。
なのに数年後
私は鬱になりました。
弱っています、助けてください。
ときたものだから 驚いた。
僕の前でぼろぼろと涙を流して
「つらい」 「悲しい」 「死にたい」
と口にした。
心底羨ましい。
なんで自分勝手な人生なんだろう。
人の人生をめちゃくちゃにしておいて
やりたい放題
言いたい放題
そして甘ったれるときた。
その頃僕はすっかり大きくなっていた。
ぶん殴ってやろうかと思った。
息の根を止めるのなら今かと思った。
ある日
泣きながら僕の部屋に入ってくるなり
「失敗しちゃった…」
とだけ呟いた。
和室を覗くと
タンスの取っ手に手ぬぐいをくぐらせていた
だらんとぶら下がっているだけだった
結び目が解けたんだろう。
母は太っていたから。
僕が部屋でぼんやりしていた時
あぁ この人は首を吊ろうとしたのか。
そうか。
そうか。
死のうとしてたのか。
へぇ。
泣く母にも
目の前の光景にも
なんの感情も動かない自分が怖かった。
死のうとした人を目の前に
「死ななくて良かった」とも
「やめろ」とも
なんの感情も抱かなかった。
可哀想だとも哀れみもない
音のない 無だった。
手ぬぐいをじっと見つめた。
自分が怖かった。
それから父が帰るまでに
その光景を写真に収めた。
その時だけ
僕は笑っていた。
あの光景が今でも不意に甦る。
なぜ失敗したんだよ。
手本にならない。
相変わらず 親の背中は見当たらないな。
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