パラレルちむどんどん
99話より~智と歌子~
※この文章は、NHK朝の連続テレビ小説『ちむどんどん』を個人の妄想に基づき「こんな展開だったら、ちょっとちむどんどんしたかも」という願望を言語化したものです。
なので、本筋は基本変えていません。
すでにドラマをご覧になった方は、パラレルパート(@比嘉家)から読んでいただいても良いかな~と思います。
どうぞ、お好みで♪
完全に自己満足の殴り書きなうえ、超絶ありがちベタベタな妄想もありますが、モヤモヤ発散してるのね~と生温い目でご覧いただけたら幸いですw
本家を好意的にご覧になっているファンの方には不快なものとなる可能性がありますので、その点を十分ご理解のうえ、読む読まないのご判断をいただけたら嬉しいです。
@居酒屋『珊瑚礁』
やんばるの夕暮れ。
居酒屋『珊瑚礁』は、常連とおぼしき客たちの楽しそうな声でにぎわっていた。
智の計らいでこの居酒屋で歌わせてもらえることになった歌子が不安げな表情で出番を待つ中、店主の声が店内に響く。
「え~、みなさん! いよいよ、やんばるの歌姫、比嘉はなこちゃん! 拍手~!」
声に促され、重い足取りで小さな舞台へと上がる歌子。
10人ほどの男性客がひしめく、こぢんまりとした店内を見まわすと緊張がピークに達した。
「ご来店、ありがとうございます……聞いてください」
椅子に座り三線を構えるも、チューニングですらまったく思うように動かない指が三線の弦を弱々しく滑り、一斉に曇る客たちの表情。
「チバリヨ!」
ひとりのおじぃが笑顔で声をかけるも、一向に動かない指。
居ても立っても居られない智が駆け寄る。
「もういいから、大丈夫。早く」
と、歌子に演奏を促す。
「でも……」
「大丈夫」
戸惑いながらも演奏を始め、歌い始める歌子。
でもその声は今にも消え入りそうな、か細いもので……。
タイミング悪く、いつもの米軍機の轟音まで聞こえてきて店内から歌子の声は完全にかき消された。
軍機が遠ざかってもほとんど聞こえない歌子の声。
智がふたたび声をかける。
「大きな声で」
励まされても、声は出ない。
恥ずかしさと情けなさで、全身がこわばる。
酔客のひとりが歌子を席へと呼んだ。
「ネーネー、全然聞こえん! ここで歌ってここで!」
ワッと盛り上がる一同、一方でひとりのおじぃはそれを諫める。
「静かに飲め!」
「なにぃ!?」
一瞬漂う不穏な空気、それをなんとか収ようとする店主だったが……。
「引っ込め!!!」
と、歌子に対し怒声が響いた。
すかさずフォローを入れるおじぃ。
「ネーネー、おじさんたちとこっちで飲もう」
しかし歌子はもう限界だった。
「すみません!!!」
店の奥へと逃げる歌子。
続いて店の奥へとやってきた店主が智に詰め寄る。
「話が違う!」
「いや……今日初めてで……」
そして怒りの矛先は歌子へ……。
「あんたもプロならちゃんとやれ! レコード歌手の、卵だろ?」
「すいません、帰ります。お金はちゃんと返します」
「お金? 何かそれ。うちはこの人から、タダでも良いから歌わせてほしいって頼まれて……」
店主の話に目を見開く歌子。
智は慌てて店主を止める。
「む、向こうで話しましょう! あっちで……」
「お金なんて払ってない……」
「いいから、向こうで……歌子、ちょっと待ってて」
店のカウンターで言い訳に追われる智をよそに、歌子は店を飛び出し一目散で家へと帰っていった。
@比嘉家
家の縁側でひとり、うなだれる歌子。
そこに智がやってくる。
「歌子……」
「智ニーニー……あの前金って、お店からじゃなかったんだね……」
「いや、その…………ごめん」
必死に笑顔を取り繕う歌子。
「ううん。ほんとは、お金もらえるなんてちょっとおかしいなって……うちのほうこそごめん。智ニーニーのだいじな取引先なのに、あんな恥かかせて」
「俺は大丈夫! でも……歌子につらい思いさせたさ……俺ほんと、ズレてたよな……」
「そんなことない! だって智ニーニーは、わたしのためにしてくれたんだよね? ……ウソ、つかれたのは悲しかったけど、それを言ったら、うちも智ニーニーに酷いウソ、ついたし……ごめんなさい」
「え? 俺に? 歌子がウソ? いつ?」
「え? あの、暢ネーネーの披露宴にムリヤリ……」
「あぁ、あれか」
言うと智は、ひとつ大きく息をついた。
「正直、あのときは俺も頭が真っ白になったさ。で、歌子にも、で~~~じ、ハラが立った」
「ごめんなさ……」
「でも……披露宴に出て、暢子が、和彦が、心底しあわせそうで。スピーチまでさせられたのにはさすがに参ったけど、なんか吹っ切れたわけ。それまで暢子と和彦のこと、どうしても祝う気持ちになれなかったけど、そんな気持ちも不思議と消えたわけさ、自分でもよくわからんけど」
押し黙る歌子に、さらに智が続ける。
「だから、経緯はともかく結果的には良かったわけ。歌子には感謝してる。ありがとな」
「そんな……」
「ただ、ひとつだけ。これから先、仮病だけは絶対に使うな」
「え……」
「歌子の身体のこと、優子さんも賢秀も、良子も暢子も、もちろん俺も、み~んな心配してる。だから、それだけは、もうするなよ?」
「……はい。ごめんなさい」
そんな会話をするふたりを、遠巻きにこっそり見ていた仕事帰りの母、優子。
その瞳は優しく、微笑んでいる。
優子は踵を返すと、来た道を戻っていった。
「ところで歌子、今日のステージは、荷が重すぎたかね? 披露宴であれだけ歌えてたから、俺てっきり行ける! って勝手に思いこんでしまったさ」
「うん……うちも、歌えると思ってたんだよ? ……でも、何かね。あの場に出たら、頭が真っ白になった。胸が苦しくなって、でーじ怖くて。こんなことでは、うちに歌手なんてムリかね……」
「そんなことない! 歌子はきっとレコードが出せるくらいの歌手になれる! 俺にとっては、歌子はすでに沖縄一の歌姫やっさ」
智の大きな手が、歌子の頭にポンと置かれる。
それは幼いころの大事な思い出にも似ていた。
「ありがとう……智ニーニーは、昔からうちのこと、諦めないでくれたよね」
「当然! 俺は歌子の歌の大ファンだからよ」
「うち、もっと練習する。もっともっと練習して、自信つけて、次こそは智ニーニーが自慢できるくらいの歌、みんなに聞かせる!」
「その調子~、歌子ならできるさ」
「うん! 智ニーニーありがとう。うち、やっぱり智ニーニーのことがす……」
「ん?」
「あ……な、なんでもない!!!」
「……? よし、俺も歌子に負けないように、もっと頑張るさ」
「うん、うちも智ニーニーのこと応援してる」
「おぅ! ありがとう」
「あ、すっかり話し込んでしまって……お茶も出さずにごめん。智ニーニー、もうお母ちゃんも帰ってくるし、夕飯一緒に食べて行って? ね」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「中、入って。今お茶入れるね」
家に智が上がるのと同時に、優子が改めて家に戻る道を歩き始めた。
空は、オレンジと薄紫が美しくグラデーションを描いている。
つづく(?)
以上、お粗末様でございました<(_ _)>
ほんの少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。