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ドラマ「17才の帝国」から感じる強烈な問題提起

久しぶりに強烈に面白いドラマに出会いました。
その名も NHKで先日最終回放送された「17才の帝国」
ドラマとしても、世の中への問題提起としても、未来へのモデルケースとしても、今、私たちが考えないといけないことが盛り込まれていると思いました。
今回は霞が関の中の人から見たドラマ感想を書きたいと思います!

[あらすじは、公式サイトから引用]
舞台は202X年。日本は深い閉塞感に包まれ、世界からは斜陽国の烙印を押されている。出口のない状況を打破するため、総理・鷲田はあるプロジェクトを立ち上げた。「Utopi-AI」、通称UA(ウーア)構想。全国からリーダーをAIで選抜し、衰退した都市の統治を担わせる実験プロジェクトである。若者が政治を担えない理由は、「経験」の少なさだと言われてきた。AIは、一人の人間が到底「経験」し得ない、膨大な量のデータを持っている。つまり、AIによっていくらでも「経験」は補えるのだ。それを証明するかの如く、AIが首相に選んだのは、若く未熟ながらも理想の社会を求める、17才の少年・真木亜蘭(まきあらん)。他のメンバーも全員20才前後の若者だった。真木は、仲間とともにAIを駆使し改革を進め、衰退しかけていた地方都市を、実験都市ウーアとして生まれ変わらせていく―。

この設定、一見非現実的と思う人もいると思いますが、「AI」「17歳という未成年の総理」「実験都市」は、すぐそこに実現可能な世界だと思う。
まず、AI技術は日々進歩を遂げており、今までの歴史文書や政策決定のための文書をソースにすれば実験都市ウーアが持つ政策決定のためのシミュレーションを行うヘキサ、ノナ、といったAIはほぼ作成可能だ。
そして、「実験都市」は、「国家戦略特区」という仕組みに地方自治体が乗れば、すでに実施可能でしょう。

そして、「17才の未成年の総理大臣や若い世代で固めた閣僚」は、国家戦略特区であればできる可能性があるし、さらに現実の世界としても、今出来ようとしている「こども家庭庁」。これは、誰が長官になるんだろうと妄想する。昨年度できた「デジタル庁」が、トップに据えた「デジタル監」が本来であればデジタル技術をよく知る民間人材を予定していたことに倣うと、「こども家庭庁」の「こども監」がいるなら、「未成年の子ども」が据えられるという世界もあり得るんじゃないかと妄想してしまう。しかも今は18才から成人ですしね。
↓こういうコメントもあります。
「子どものための審議会をつくりパブリックコメントなども行って、子どもの意見を聴く組織体にしたい」と述べ、子どもの意見も反映させながら政策を実現させていく考えを示しました。

しかし『こども監』…アキラのイメージになっちゃいますw

映画アキラのナンバーズ

ということで、設定は多分やろうと思えばできる、というところがこのドラマの痺れるところです。

そして、ドラマの本筋は今の政治や日本の課題を炙り出す。
プロデューサーの人も「少しでも政治に興味を持ってくれる方が増えることを願って」と書かれているように、これは相当勉強して、意識して作られているんだろうなと想像します。

ドラマが描き出す問題提起は
「少子高齢化により、高齢者優遇の政策になっていること」
「既得権益が蔓延り、全体の財政も気にせず効率も効果もない費用だけ嵩むことが続けられていること」
「サイレントマジョリティーの意見が届いていないこと。今の時代の民主主義ってどうあるべきか」
「AIをうまく共存するには」
「若者が政治の主体者になったらどうなるか」
ということが読み取れます。
これでもかというくらい盛り込まれていて、「仮にAI使って若者が政策決定したらどうなる?AI使って民主主義やったらどうなる?」というシミュレーションが、そうやったらの良さ、問題をドラマの中で炙り出されています。

その中で私がとっても面白いなと思ったのが、「新しい意思決定の方法」。
今までの選挙や政治は、全員で意思決定するには人数が多すぎるから、自分の意見に近い人を代表に選んで、その人に意思決定を託すという方式だったと思います。
それは物理的な理由が大きくて、数千万人の意思決定をやるには労力と時間がかかるからという限界があったと思います。

でも、今それが技術で乗り越えられる。
デジタル技術で全員の意思が瞬時に集めて集計できる。
その姿をドラマは見せてくれます。
そして、最終的にそれを実行する実行部隊が少数の閣僚。

今の選挙の方法だと、投票率も低く、結局「人」に投票して、その人に決めてもらう方法なので、その「人」の決めることが、全て自分と同じ考えだとは限らず、この部分は一緒だけど、この部分は受け入れられない、ということにカスタムできない仕組みだけど、それぞれの課題に逐一投票できる仕組みだと、完全に自分の意思がカスタムできる。
ダイレクトに自分の意思が通る分、その問題に興味を持つし、投票しなくて決まったことは責任放棄なので何も言えない。

現実的にそのような意思決定をしている国は聞いたことがないので、色々なハードルがあるんだろうと思うけど、「もしそうだったらどうなる?」をドラマで描き出してくれているのはとても興味深い社会実験だと思う。そして、本当にこれが実現できたら、私たちの社会は今と全然違う方向に行くだろうなと予想する。自分の周りにはやっぱり自分ににた環境の人がいて、そこで考えが偏ってしまうけど、全ての人の意見が聞けるようになると一体どうなるんだろう。

そしてもう一つ面白い仮説の検証だと思ったのが、「若者が政治の主体者になったらどうなるか」。
総理大臣に選ばれた17才の少年は、とても聡明で冷静沈着で、非常に闇を抱えた人生を歩んできた人なので、本当のフツーの17才とは違うとは思うけど、真面目に考えた時に、経験ではなくこうあるべきという理想、できるできないではなく頭で考えるあるべき社会を純粋に信じられるところは若者の持つ特性だと思う。

そこで描き出される現実との軋轢、自分が理性で考えた政策が色々な人の話を聞く中で段々と変わってきて、経験値を積むことで、もはや若者ならではの考えだけではいられなくなってきてしまう矛盾。
確かに若者はいつか大人になる。そしてそれは経験を積むことで大人になる。若者から大人になる境界はないけれど、「若者」というあるようでない概念を掲げて、「若者の考え」とひとまとめにするのもおかしい話だ。
高齢者の政治家が一概にだめなのか、いつまでも利権がないところで柔軟に意思決定できる人があり得るなら、それはいいことなんじゃないか。

こうあるべきをちゃんと発言できて目指せる社会であって欲しい。
若者VS高齢者ではないみんなが幸せになる社会はなんなのか。
テクノロジーで解決できることと、その土地ならではの文化を継承すること。
そのほかてんこ盛りの社会問題提起を入れながら、ドラマとしては秀悦なリアリティを持って進む。もっと主人公やそれを見守る星野源演じる内閣官房補佐官を掘り下げてほしいと思いながらもドンドン話は進む。

色々な課題を叩きつけながら、明確な答えは出さずドラマはあっという間に5回で終わってしまった。

もっとじっくりと深掘りできる内容がたくさんあったし、そんな簡単に答えが出る話ではなかったし、ドラマは最後までこの壮大なシミュレーションの答えを出していないし、もっとこのドラマが話題になるべきだと思うし、ホント政治経済の授業の教材にしてもいいドラマだと思う。

そして、エンディングの主題歌がさらに最高だった。
「声よ」
重く切ない音楽が、このドラマの繊細さや重さを際立たせる。
ドラマのモヤモヤを最後は美しく綺麗な音楽で終わらせる。

色んな人も感想で書いているけど、倍の長さでやってほしいドラマだったな。
この17才の総理が作ろうとした世界を引き継いだ人たちの物語、10年か20年後の大人になった17才だった総理とその時の世界をまた描いて欲しいなと思いました。

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霞いちか@霞が関の国家公務員
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