オレンジのスカート

 高校生の私は、友人2人とディズニーランドに行くことになった。友達は言った。
「みんなでオレンジのスカート履いていこう」
 私は困った。オレンジどころかスカートなんか持っていなかったから。友達もそれは知っていた。
「私オレンジぽいの2枚あるから貸してあげる」
 履いてわかった…いや、思い出したこと。私はスカートが嫌いなわけじゃない。

 高校生の私は大したオシャレもしなかった。メイクの仕方もわからなければ、ヒールも履いたことがない。フリルのついたようなものや、かわいらしいデザインのものは、ほとんど持っていなかった。デートに行くこともなければそもそも彼氏を作る気もなかった。でもこの頃にはなんとなく、女友達と並んで歩く時、引け目を感じていた。彼女らはまだ不完全とはいえオシャレに気を配っていて、一方私は小学生の頃から普段着に特に変わりはない。ズボン、Tシャツ、パーカー。引け目は感じても、それ以上に、男の子のような格好をしているほうがいい、と思っていた。

 そのまま高校も卒業して、私は19になった。その年私は父と再会した。私と父の時は、15年前で止まっていた。けれどもそれが、15年前の私との再会でもあったのかもしれない。父は私をディズニーランドに連れて行ってくれた。時を埋めようとするかのように。そもそも私はディズニーランドを素直に受け入れて楽しめるような人間ですらなかった。その状態で高校生の頃、友達に合わせて一緒に行っていた。誤解のないよう断っておくが友達と一緒にいるのは楽しかったし、大切な思い出であることは確かだ。
 父は小さな子たちがプリンセスの格好をしているのを見て言った。
「プリンセスの格好とかしてみたくない?」
 という意味のことを。私は首を横に振った。けれど思い出した。私はプリンセスのような格好をしてみたい女の子ではなかったか?あのオレンジのスカートを履いたとき感じたものは、私の中に幼い頃から確かにあって、けれど無碍にされ、置き去られたものではなかったか。

 けれど私はやっぱりスカートを履くことはなかった。そして大学生になった。けれど、少しは変わっていた。
 祖母が、化粧水と乳液くらいつけなさい、とそれらを買ってくれた。買い物に行った時、スカートや、それに合う靴を買ってくれた。
 高校の頃の友人たちと遊んだとき、私は友人に化粧品の選び方を訊いた。友人はリップグロスや、アイシャドウを一緒に選んでくれた。
 もうわかっていた。私は自分が思っていたよりもずっと根っからの女の子だ。しかし確かに飾り過ぎは苦手だし、ズボンにTシャツにパーカーという格好は楽だった。汚れても平気だし、今でも働く時は、男性と変わらない服装で、それが心地良いと思っている。私の中に、より男性的な趣味の私と、より女性的な趣味の私が両方棲んでいる。そしてどちらかを否定することはできない。どちらも私だから。場面によってしたい服装は変わる。男性的なものも女性的なものも、全部まとめて「私のしたい格好」だ。その時々の自分の欲求を、素直に聞いてみることにした。

つづく…かもしれない

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