わかりやすいのに、かぎりなく深い――やなせたかしの歌と詞、その技法
2ちゃんねるやNAVERのまとめサイトで「アンパンマンは深い」「やなせたかし先生はすごすぎる」というものをよく見かける。
そうだ うれしいんだ
生きる よろこび
たとえ 胸の傷がいたんでも
なんのために 生まれて
なにをして 生きるのか
やなせ先生が作詞した「アンパンマンのマーチ」には、ひたむきさとものがなしさが同居している。多くのネット民と同様に、僕も幼少期に聴いていたときには、そのことに気づかなかった。先生ご本人も、そりゃそうだ、というようなことをおっしゃっている。
アニメのテーマソング「アンパンマンのマーチ」は「手のひらを太陽に」と並ぶ国民的愛唱歌です。
「あれは相当むずかしい歌なんで、意味はわかってないと思う(笑)。でも、ほんとうの意味というのは、なんとなく通じてしまうんだね。ノスタルジーを歌う童謡とちがって現在の歌だから、小さい子どもにもわかるんです」月刊MOE』二〇一二年三月号11p)
僕は一九八二年生まれなのでTVアニメ「アンパンマン」が始まったときには六歳。僕には五歳下の弟がいて、弟につきあってよく観ていた記憶がある。「愛と勇気だけが友達だなんて、アンパンマンは友達がいないのかな?」などと、誰でも一度は思いつくようなことを、無邪気に弟に向かって話していた。こどもなんてそんなものなのかもしれない。けれど、今になってやなせ先生に、そして弟に謝りたいきもちになる。あさはかでした、ごめんなさい。
ここで僕は、やなせ先生について、音楽活動を中心にみてみいってみたい。音楽活動? ああ、作詞のことね。「アンパンマンのマーチ」とか「手のひらを太陽に」とか。と思うひとが大半だろう。たしかに作詞家やなせたかしとしての活動も膨大な量がある。アンパンマン関連の作詞だけで二〇〇曲を超える。どの詞も、やなせ先生らしい、あかるさと哀切さが、わかりやすくつづられている。でもそれだけではない。
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