柳のスローカーブ考

柳裕也が苦しんでいる。奪三振ランキングこそトップに立っているものの、現時点(8/4)で防御率3.48、8敗を喫している。また、被本塁打も昨年の数字(11)を既に超える12本を浴びている。その背景には、今年からレパートリーに加えたスローカーブの存在が一因としてあるのではないだろうか。本稿では今年の柳に対する雑感、カーブという球種に対する考えを書いていこうと思う。

昨年の柳裕也の凄み

昨年柳は最多奪三振、最優秀防御率の2冠を獲得した。昨年の柳の真骨頂は縦スライダーとカットボールのコンビネーションだろう。対右は外のストレートをベースに、同じコースから小さく曲げるカットボール、大きくボールゾーンに曲げていく縦スライダーを織り交ぜるのが主な配球だった。また、対左では内外に投げ分けるストレートに、ひざ元に曲げこむカットボール、外へ逃げるチェンジアップに加え、スライダーをバックドア的に外のボールゾーンから曲げて入れる工夫もみられた。それらの組み合わせに加え、ここぞでの制球を間違えないのも昨年の好成績を生んだ要因の一つだろう。安易にストレートを要求しない捕手・木下のリードも良かった。

スローカーブの魔力

今年から柳はスローカーブを自身のレパートリーに本格導入した。昨年までもカーブは投じていたが、それを更に遅くしたものだろう。

率直に言って、このスローカーブが今年柳が苦しんでいる原因なのではないかと考えている。柳は、このスローカーブの「魔力」に支配されているような気がしてならないのだ。

そもそも、スローカーブとはどんな球種なのか。そこを考えていきたい。前述したように、柳の主な持ち球は縦スライダー、カットボール、チェンジアップ、スローカーブだ。変化球には、
・ストレートと近い軌道から曲げる
・大きく曲げて打者の目線を外す
大きく分けて2つの用途があると考えている。この考え方から見ると、柳のスライダー、カット、チェンジはどちらかというと前者だ。スローカーブのみ、後者に近いものだろう。そして変化が大きいということは、ボール球が増える危険がついて回る。それを無理に使おうとすることで、球数が増え、自分で負担を増やしているのではないか。昨年は8回110球が目安だったが、今年は7回で110球に達していることが多いのも事実だ。
2021年投球成績
2022年これまでの投球成績

また、もう1つ挙げられるのはスローカーブで打ち取った時の気持ちよさだろう。全くタイミングがあっていない空振り、想定にない球で110キロ前後の球を見送るしかない打者の表情。この爽快感は代えがたいものがあるはずだ。オープン戦でそれを知ってしまったことで、スローカーブにこだわってしまった側面もあるのではないだろうか。@cd_yakiu氏も仰っているように、今の柳は「スローカーブを操るというよりスローカーブに支配されている」状態とも言える。スローカーブで強打者を手玉にとった時の快感、魔力にあてられてしまったのだ。

カーブ系の適切な使い方を考える

では、スローカーブはダメな球なのか。決してそうではないだろう。本章では、カーブのよりよい使い方について考えていこう。

まず断っておきたいのは、今回論じる「カーブ」とは、いわゆる「抜いて投げる」系のカーブについてだ。元阪神ピアース・ジョンソンやオリックス山本由伸らが投じる強度のあるいわゆるパワーカーブ系のそれとは違うことを予め言っておきたい。

カーブについて分析するならば、メリットは
・基本的に待たれていないことが多いため、タイミングを外しやすい
・正しいリリースをしないと上手く曲がらないため、メカニクスを修正する役割もできる
だろう。今回はメカニクス的なことはそこまで語れないので、主に前者だ。カーブは多くて割合10%がいいとこなので、よほどのことがない限りカーブを待つことはないだろう。そこで投じることで、タイミングを外せたり、カウントを楽に稼ぐことにつながる。
デメリットは、
・変化が大きいのでボール球になるリスクもある
・球速が遅いので当てられるリスク、バットに乗せられるリスクがある
だろう。総じていえば、効果はあるが、多用すると危険な球種と言える。

だからこそ、「カーブもあるぞ」と相手に意識づけるだけで十分効果があるのだ。

今年のオープン戦ではこれでもかというほどスローカーブを多投していた。これに関しては文句はない。相手チームにとっては、「去年でも十分うっとうしかったのに、スローカーブまであるのか」と思わせられるからだ。言い換えれば、オープン戦を撒き餌にできていた。ここまでは良かったが、シーズンに入ってもまあまあな数投げていることがよくないのだ。

また、使う場面についても考えたい。「スローカーブもあるぞ」と相手が想定しているところで親切に投じてはいけないのだ。今年もほんとに見ていないが、おそらく序盤からスローカーブを投じているのではないだろうか。正直序盤にスローカーブはいらない。また、下位打線にも必須ではないだろう。必要なのは中盤以降、しかも相手の主力打者ではないか。

プロともなれば、それまでの組み立てや打席結果を基に狙い球を絞ってくることも多いだろう。そして、終盤に近付くにつれて勝負はシビアになる。そこでカーブでカウントを取れたらなんと楽だろうか。そして、その場面でのカーブを最大限生かすためには、それまでの過程でカーブを多投していてはならないのだ。意識の外にある球で安全に、簡単にカウントを整えたいのに自分から相手に意識させてあげていることになってしまう。
具体的に言えば、上の私のツイートのように3巡目、先頭の主力打者相手に投じるなどがよいのではないか。カウントも、追い込んでいるなどの深いカウントではなく、浅いカウントがいい。また、先頭でなくても、ランナーがいない状況が望ましい。ランナー三塁などのバットに当てさせたくない状況ではカーブは望ましくない。

まとめ

抜いて投げるカーブはあくまで「アクセント」として用いるべきであり、自分の中で安定したパターンがあって+αでカーブを時折投げるのがよい形だろう。また、投手の目的は「相手を崩すこと」でなく「相手を打ち取ること」だ。しかし、今年の柳はスローカーブに囚われ、「カーブで相手を崩す」という意図が大きくなりすぎてしまっているような感じが否めない。その他の球種が劣化しているわけではないように思うので、そこから脱却してカーブを「アクセントとして」用いることさえ実践できれば、球数も削減でき、結果にもつながってくるのではと思うのだが…以降の柳に期待したい。

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