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【短編】幸せは夜とコンビニご飯の間に。

「遅くなっちゃったし、今日はコンビニご飯にしよっか」

彼がそう言って上着を着ていた。季節は春、しかし外は肌を刺すような寒さで、買ったばかりの春コートは活躍する場を失いつつあった。

わたしも彼にならって上着を羽織り、スマホ1つだけ持って家を出る。

今は電子決済サービス戦国時代、カードがたんまり入ったお財布を持ち歩かなくても買い物ができる。便利な時代だ。

彼と繋いだのとは反対の手をポケットに突っ込むと、飴玉が出てきた。薄っぺらな袋にはメロンの絵が書かれていて、2月くらいに二人で行った居酒屋さんでもらったやつだと思い出す。

「ねぇ、見て。出てきた」

「どっかでもらったやつ?」

「たぶん居酒屋さんでもらったやつ」

「君はすぐポケットに入れちゃうから、」

彼がそう言いかけてやめ、突然ガザゴソとポケットを探り出す。飴が出てきた。メロン味。

「酔ってるときって、どうして食べないのにもらっちゃうんだろうねぇ」

「くれるもんはもらっとけって、本能が働くんじゃない」

「それって本能?」

笑いながら歩いていると後ろから自転車が通り過ぎる。変な話を聞かれちゃったかな、とまたクスクス笑いあう。

家から5分のコンビニは空いていて、わたしたち二人と店員さんしかいなかった。少しいかつい見た目のレジ打ちさんは、ニコリともせずに「いらっしゃいませ」とつぶやいた。

丼もの・麺類のコーナーに居座って、じっくりと今日のメニューを選ぶ。決められないわたしが横を見ると、同じく決められない君がわたしを見ていた。

「今日は麻婆丼がない。どうしよう」

「たまには別のにしたら。あ、ほら、麻婆チャーハンとかあるよ」

冗談で差し出した麻婆チャーハンは買い物かごの中に吸い込まれていった。彼はいつも麻婆豆腐ばかり食べる。山椒にしびれてひーひー言いながら、コールスローをかき込むのがお決まりだった。

わたしは魚介系のパスタと和風サラダをかごに入れたあと、「アイス食べたい」と言って陳列棚に張り付いた。春先の新作は苺フレーバーが多くて悩んでしまう。

「今日は寒いよ」

「部屋はあったかくすればいいよ」

「それもそうだ。僕も買おう」

また二人で並んで悩む。他のお客さんは誰もこない。

彼もわたしもパルムをかごに入れて、お会計を済ませた。いかつい店員さんは相変わらずニコリともしないけれど、丁寧に商品を袋詰して送り出してくれる。彼がいるからか、そこのコンビニの前にはたむろする若者がいない。

結局我慢できなくて、夜風に当たりながら二人してパルムをかじる。寒いね、寒いね、って言いながら、並んで帰る。重いご飯は彼が、軽いサラダやアイスはわたしが持って、お花見をしながら帰る。通り沿いの桜並木がそろそろ満開を迎えようとしていた。

去年よりもたくさん花がついている気がするね、なんて実のない話をしながら歩く。夜はしんしんと更けていくのに、これから彼とご飯を食べる。お風呂に入って、少しのお喋りをして眠る。

二人でいる夜は、一人でいるよりもずっと長い。







ショートショートにもならないような一幕でした。エッセイのような、小説のような。日常的なものを切り出すって難しいですね。

個人的に会話文だけの小説とか、ある二人がただ喋ってるだけの映画とか(セトウツミとか)結構好きだったりします。

大きな仕掛けのあるものはもちろん素敵だけど、ふとした瞬間の楽しさを追っかけて書くのも素敵。そして読むのも楽しい。

特に今みたいなおうち時間の多い時には、より幸せらしいのもに触れたくなる。自分でも書きたいし、誰かの幸福なやりとりを集めたい。




そういえば、と思って掘り起こしてきた約半年前の小説。会話文のみで書いたショートショートした。

個人的に読んでもらいたいおすすめnote*


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七屋 糸
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