石破茂著『保守政治家 わが政策、わが天命』を読んで

今年8月7日に講談社から石破茂首相の著書『保守政治家 わが政策、わが天命』が出版された。1週間後に岸田文雄首相(当時)が退陣を表明する絶妙のタイミングだった。9月の自民党の総裁選では、石破さんは小泉進次郎議員、高市早苗議員とともに主役の一人になり、大逆転の末に勝利した。10月1日に首相に選出され、この本は店頭からあっという間になくなった。版元の講談社に書店や読者から注文や問い合わせが殺到、緊急重刷中という。
本書は、週刊誌「サンデー毎日」に載った毎日新聞客員編集委員の倉重篤郎さんのインタビュー記事が下敷きになっている。昨年暮れから企画が始まっていたらしく、倉重さんは「自民党幹事長を務め、4度の総裁選にチャレンジ、総理一歩手前まで行った人物である。しかも、世論調査ではなお圧倒的な人気を維持している。・・・石破氏はもう終わった、という論がある。・・・安倍政治10年、清和研政治二十余年の反動が、歴史の幕間で石破氏を再び舞台上に引き上げようとしているのだ」と書いている。出版社の狙いが見事に当たった。
本書は、自民党を取り巻く不祥事などへの見解から始まり、田中角栄との出会い、生い立ち、政治家としての立ち位置と続く。さらに保守政治の源流を探り、政策を突き詰め、近現代史を振り返り、今の政治に欠けているもの、求められることを説く。読者家と言われるだけあって視野は広く、教養、品格を重んじる姿勢が出ている。ここ10数年の自民党への苦言に満ちた「警世の書」となっている。
石破さんとは10年余前、NTT西日本の要請で八頭町のケーブルテレビ事業を行っていたご縁で、何度か「大阪鳥取県人会」や「関西八頭町会」でお目にかかり、お話しを聞く機会があった。
新聞記者出身の悪い癖で、田中角栄元首相との出会い、小選挙区制の問題点や野党に転落した原因などを根掘り葉掘りお聞きした。2012年の自民党総裁選で安倍晋三元首相に敗れた直後でも、人なつっこい熱意あふれる語り口で政治に賭ける思いがひしひしと伝わって来た。また、珍しい姓の由来について「先祖は、石屋だったのではないかという人もいるが、後醍醐天皇が隠岐島に流される時に、準備を整えて出迎えた先祖に後醍醐天皇から賜った名字です」とちょっと自慢げに話したりもした。
本書の「はじめに」に「もし私などが首相になるようなことがあるなら、それは自民党や日本国が大きく行き詰まった時なのではないか。しかも、それは天が決めること。天命が降りない限り、それはありえないことでしょう」と出てくる。そして最後に「天命が下った時に能力が足りないという言い訳は許されない。・・・だからこそ日々最善を尽くすしかない」と書いている。
石破さんは今回の総選挙に自民党が抱えるハンディを背負ってのぞむことになった。10月27日の投開票で勝ってからが石破さんの本番である。今後に期待したい。


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