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シェリル④
~シェリル2階たくちゃんの部屋~
で、何があったの?あぁそれより先にシャワー浴びてらっしゃい。
あいにく下着は男性用しかないから浴びてる間に買ってくるから心配しないで。
びしょ濡れの彼女、ミチルにタオルを渡しながらたくちゃんが話しかけると
良いんです、このままで。さっきはごめんなさい、取り乱して恥ずかしい…と消え入りそうな声でミチルが答えるのを遮って
いいから。話するだけでも落ち着くものよ、お客様に風邪ひかせる訳にはいかないの。お化粧もきちんとするのよ。
そう言い残すとたくちゃんは階段を降りて行った。
ヒカリちゃん、お茶はまだ後でいいわ。アタシちょっとコンビニ行ってくるからお店番お願いね!
返事する暇もなくそう言うと傘を手に外に行ってしまった。
なんなんだろうね。てかあのヒト知ってるの?
ヨリコに聞かれたけどわたしだって初対面。
知らないわ。と答えるのが精一杯だった。
コージ、また違う女連れて来たのか。懲りないヤツだねぇ…。
いつの間にかカウンターの中に客が入って水割りを作っている。みんなから『パパ』と呼ばれる気の好い常連だ。
パパは知ってるの?
知ってるのもなにもアイツの女好きは有名だよ、しかも飽きっぽくてさ。そんな顔が良い訳じゃないのに不思議だよね。しかし…
全く女も女だね、オレみたいにイイ男がいるってのに誰も寄ってきやしねぇや。
寄る訳ないでしょ、パパには恋女房がいるのにねぇ。
そうそう!パパになにか怪しいところがあったら恋女房が飛んでくるわな!
そんな話をしている内にたくちゃんも戻ってきてまた2階に行ってしまった。
~再びたくちゃんの部屋~
そう。まぁでもアナタもコージに奥さんいるって知ってたんでしょ?一緒にはなれないってことも。たくちゃんの用意したセーターとスカートに着替えたミチルに向かって問う。
それでも好きになったんです。最初はまめに連絡もくれたし、よくデートにも行ったけど、彼ったらLINEも教えてくれないし写真も一緒に撮らしてくれない…段々連絡も間遠くなって…。ここに来たら会えるって思ったら居ても立ってもいられなくって。
よくあるパターンね。ねぇミチルちゃん、正直言うと他にもいるのよ、あの人にはね。寂しがり屋のクセに飽きっぽい。次第にそうやってフェードアウトするのはいつものこと。アタシはお客様のプライベートに口を挟む主義ではないけど、あんな人はいつかバチが当たるのよ!
最後は笑いながらミチルにそう言うと、そういやミチルちゃんのこと好きだって言ってた彼は?ポンちゃんだっけ?あのコはダメなの?
ポンちゃん?眼中になかったわ。ラクだけどなんかこう…燃え上がらないというか…年下だし。
贅沢ね!とにかくコージは忘れなさい。まだまだこれから咲く花をムダに枯らしちゃダメよ。さ、キレイになったところで下りましょうか。
~シェリルにて~
ヒカリの淹れたお茶を飲み、落ち着きを取り戻したミチルを改めて見ると穏やかな大人の雰囲気を纏ったかなりの美人だ。
…ヨリコがキリッと引き締まったヒョウならミチルさんは触れる者みな蕩けさせるような猫みたいだなぁとふたりのタイプの違う美人を見てヒカリは思った。
あんなに可愛い猫みたいな女性が豹変するくらいに情熱を傾けたコージってどんな男性なんだろう…会ってみたいな…
どうやら『火の用心』はどこかに行ってしまったようだ。