Bar シェリル⑦
皆さん、新年おめでとうございます。
どんなお正月をお過ごしになったかしら?アタシ?アタシはそりゃもうひとり賑やかに過ごしたわよ!
てことで、ウチもいつまで続くかわからないけど今年もよろしくお願いしますね!
さて今日から営業なのよ、まずは枡酒で皆さんをお出迎えしなくちゃね。
口開けは、パパと恋女房のセツコさんね。いつもはパパひとりだけど、時々セツコさん同伴でいらっしゃるのよ。枡の角にちょいと塩乗せて、セツコさんもイケる口だから楽しいお酒になりそうね…。
あら!差し入れ?まぁ嬉しい!
今日は常連さんの新年会みたいなものだからそんな気を遣わなくて良かったのにね、あらお重の中に…まぁなんとキレイな和菓子がこんなに!
お酒に合うか?構わないわよ、これは女性陣でいただきましょう。
まぁミチルちゃんとポンちゃんも来てくれたのね!
あの雨の日、ポンちゃんが迎えに来てくれてグッと接近したみたいよ、良いじゃないの。HAPPYなら…。入れ替わり立ち替わり常連客の挨拶やセツコさんの差し入れを男性陣も摘まんではたくちゃんに叱られたりとしばらくぶりにシェリルは明るく賑やかな笑い声に包まれていた。
たくちゃん!久しぶり!ずいぶん賑やかじゃん?俺も混ぜてよ。
そろそろ店じまいも考え始めた時間にドアを開けて入ってきたカップルを見て一瞬店の中に冷たい風が吹いた。
まぁコーちゃん…。なんでまた…こんな日に
さすがにたくちゃんはたじろいだがコージとその彼女は臆することなく店へ入る。
パパとカウンターに座っていたセツコさんがサッとミチルを隠すようにボックス席を移動してパパを呼ぶ。
コージの連れていた女性は、どうやらこの辺りの女性ではないようだ。
顔色の変わったミチルをポンちゃんも心配そうだ…。
ちょっとコーちゃん良いかしら?彼女はこちらに座ってね。
たくちゃんが手招きして奥にコージを連れていくと
「アナタどういうつもりなの?どんな女性と付き合おうとアタシの知ったことじゃないけど揉めて別れるのはお止しなさい!いい年なんだから少しは考えなさいよ。」「何が?」「とぼけないでちょうだい!ソノ気にさせて勝手に消えて。女の子からしたらたまったもんじゃないわよ!」
大きな声ではなくても、あの日のことは常連は殆ど知っている。奥で何を話しているかわからず、ひとり残された女性は所在なげにスマホを弄っていた。
たくちゃん、オレ達帰るわ。お勘定はセツコさんに預けたから足りなかったらまた持ってくるね。
ほどなくポンちゃんが奥に声を掛けてミチルを連れて帰った。
話はまだ続いているようなので、セツコさんが女性の相手をしながら水割りを作っている
…まぁそうなの、出張先の?スナックにお勤め?で付いてきたの?コーちゃんモテるから心配ね。あなたはご結婚されてるの?あらそうなの、ごめんなさいね、初めてなのに立ち入ったこと聞いて。これだからオバさんはってよく言われるのよ。豪快に笑いながらセツコさんが女性のプロフィールを聞き出していた。
ともかく、一杯飲んだらおかえりなさい。それとウチのお客さんに手を出したらアタシ承知しないからね!
わかったよ!なんだよ久しぶりに顔出したらこれだよ。
両手を広げて肩をすくめるコージにどれだけ効果があるかわからないけど、今はそう言うだけが精一杯だった。
席に戻ったコージはミチルがいないことに安堵したのか女性と時に指を絡めて親しげに話をしている。
一杯で帰りそうにないわね…。
そう思ったたくちゃんだったが
さてと私たちも帰るわね!今日はヒカリちゃんも来ないみたいだし。来たらよろしく伝えててね。
パパとセツコさんが席を立つタイミングで
じゃあそろそろ店じまいにしようかな。
開店準備でてんてこ舞いだったからアタシもちょっと疲れたわ。コーちゃん、悪いけど今日はこれでオシマイ!彼女も長旅で疲れたでしょ?ホテル取ってるの?
あ、今日はコージのマンションに泊まるので時間は大丈夫なんです。とにっこり微笑みを浮かべる彼女はコージにぞっこんらしい。ほどなくふたりは二人三脚でも始めるかのごとくぴったり身体を寄せて店を出ていった。
全く…懲りないオトコだわ…。
修羅場は御免蒙りたいんだけどね。
片付けをしながら
今日は妙に疲れたわね…。
いつもならヒカリが来てくれるのに今日は会社の新年会で来られないと申し訳なさそうに言うのを少し寂しい気持ちで聞いていた。
やぁねぇ…なにを気にしてるのかしら。アタシも焼きが回ってきたかしらね。
片付いた店内を確認して外の看板の電気を消そうと外に出るとヒカリがいた。
あら!ヒカリちゃん。新年会は?
さっき終りました。たくちゃんに挨拶だけしたくて来ちゃいました。
今年もよろしくお願いしますね!
綺麗なお辞儀をするヒカリを抱きしめたい気持ちを抑えて
こちらこそよ!わざわざありがとね、そうだセツコさんの差し入れがあるから渡しておくわね。ヒカリちゃんに会えなくて残念がってたわよ。
ヒカリにとセツコさんが置いて行った和菓子のお重を渡しながら「食べきれなかったら職場の皆さんとお上がりなさいね」「はい。そうします、また来ますね!」と風のように去って行く後ろ姿を見えなくなるまで見送っていた。
会えないと思ってた人が目の前にいると、嬉しいものね。
だけど、恋じゃないからね!
誰も聞いてないのに店の中にある金魚鉢に向かって呟くたくちゃんだった。
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