Christmasはふたりのために
まさかこんなクリスマスを過ごせるなんてね
スーパーのカートを押しながらも、幸せな気持ちが込み上がってくる。
去年は最悪だった…。
仕事が早く終ったので、約束はしていないが一緒に食事をしようと足取りも軽く彼の家に向かった。新しくできたケーキショップで評判のザッハトルテを買いステーキを焼こう、そしてクリスマスの予定をふたりで立てよう…そんな事を考えているうち彼に電話をするのをすっかり忘れていたけど部屋の灯りが心配を消す。
そぉっと鍵を開けると女性の靴と喘ぎ声…。
なにこの展開。わたしが仕事で頑張ってる間に、なにしてんの?…付き合った3年間があっという間に崩壊した瞬間だった。ふたりは気づきもせずに励んでいる…帰ろ…テーブルに食材と鍵を置き、ザッハトルテだけ持ってドアを音をたてて乱暴に閉めると週末を過ごしたマンションを出た。
夜の公園はいいよな、誰もいなくて。
ブランコ漕いで思いっきり泣いてもうここに来ることはないと駅に向かった。
ボーッとホームのベンチで電車を待っていると一つ空けた席にひとりの男が座った。
腹立ち紛れにこの男と一夜限りの恋愛でもしてみるか?なんて妄想してるとアナウンスが電車の到着を告げる。
立ち上がり乗車口へ歩くわたしに
「これ、忘れてますよ」人懐っこい笑顔の男がザッハトルテの箱を差し出す。
「ほんとだ、すみません。ありがとう」そう言いながら涙が溢れだした。
「え!?大丈夫?」「ごめんなさい、大丈夫です」慌ててハンカチを探す目の前にポケットティッシュが差し出され「なんだか僕が泣かせたみたいだね」明らかに困惑した表情の男に「すみません」を繰り返すだけのわたし
ご迷惑かけたお詫びに、これ貰ってもらえませんか?とケーキの箱を渡そうとしたが
いやいやそんな訳には。最近出来た店でしょ?それならよけいに貰えませんよ。
そんなやりとりを繰り返しているうちに思いきって
じゃあ良かったら一緒に食べていただけませんか?と誘ってみた。
え!?と驚きながらも少し考えた彼から、じゃあ駅前のコーヒーショップに行きましょう。こんな時間なら持ち込んでも大丈夫でしょう。偶然同じ駅で降りる人だったらしい彼と一緒にコーヒーを飲むことになった。
始まりはとんでもない展開だったが、いつしか並んで歩く間柄になり、お互いの過去を話すうちに腕を組み、ときには指を絡めて季節を一緒に過ごすようになった。
今日は初めて彼が家に来る。
手巻き寿司が食べたいという彼のためにわたしはスーパーにいる。そしてちょっとにやけている。
この間会ったときにふざけてストローの空袋をわたしの指に巻き付けた彼。
…期待していいのかな…
わたしからの贈り物は、これからも一緒に時間を刻みたいと腕時計にした。
食事の用意も整い、駅まで彼を迎えにいくといつもよりおめかしした彼が花束を抱えて待っている。小走りに駆け寄るわたしを受け止める彼のもう片方の手には、ザッハトルテ。
それと…と背中をごそごそして手にしたのは、「すし飯扇ぐのにいるかなと思って」と団扇だった。大笑いしながら歩き出すと
お招きありがとうと改まって言うので
来てくれてありがとうと小さく頭を下げて
Merry Christmas&Happy Christmas
と呟いた…わたしは幸せだ。
★才の祭り、才能豊かな方々にわたしのような未熟者が参加していいのだろうかと思いましたが、思いきって挑戦します。
読んでくださると幸いです。