民報サロン:210704 「住む町で楽しく過ごす」
中之作は震災後に移り住んできた港町で、とても気に入っている。海に面した我が家は秋から春までの冬の半年間、日の出の瞬間から日差しが家の奥まで入る夢のような立地のため、太陽に寄り添うような朝型の暮らしに体が馴染むと非常に心地よい。冬の日差しを有効に室内に取り込むため、日の出の時間にカーテンを開けることにしている。当然だが太陽が出ない日は暖房の熱が逃げないようにカーテンは開けない。ありがたいことに夏の日の出は北寄りに移動するため朝日で家が暑くなる心配は無く、西側の山が夕方の太陽を遮ってくれるので西日で苦しんだこともない。海からの爽やかな風を取り込む寝室の小窓は夏にほんの少しだけ開けて寝るために設置した窓である。涼しい海風がゆっくり降り注ぎ寝苦しい夜を味わったことが無い。こんな快適な場所が他にあるだろうか。
日の出を楽しむ朝型の暮らしは夏至の頃に早起きのピークが来る。朝四時にはすっかり明るくなるので、夜更かしはできない。自然と早寝早起きの暮らしが普通になり、夜中まで照明を使って生活し朝の涼しくて明るい時間に眠っている一般的な暮らしの無駄を問題視するようになる。そして気付いた者の責任として、この時間の楽しみ方を発信することにした。
日の出の写真を撮影し、早朝の涼しくて交通量の少ない海岸線を自転車で走ったり、港にカヤックを浮かべで子どもと海で朝食を食べたりと、海辺の贅沢な朝の時間の使い方をSNSで写真を交えて発信し続けている。この太陽のリズムでの暮らしは、環境負荷の小さい乗り物と馴染みがよく、私の周りには自転車仲間が増え続けている。
中之作に集まる自転車仲間と自転車部を設立し定期的に市内を走っているが、その中でも特に夏至の頃に行われるロングライドが好評である。日の出の時刻に中之作を出発し、新潟の日の入りに間に合うよう約三百キロメートルの行程をただひたすら走り続けるイベントは、自転車に興味のない方からすると何が面白いのか全く理解できないと思うが、自分の力だけで日本海までたどり着いた時の達成感は格別で、毎年走りたくなってしまう中毒性の高いコースなのである。一緒に新潟まで走りたい仲間がどんどん増えているのでしばらく辞められそうにない。
ロングライドを始めたきっかけは震災の影響が大きい。公共交通機関が麻痺し、ガソリンが手に入らない状況での避難を経験した私は、自分の脚だけでどこまで移動できるかを確かめたい気持ちが常にあった。庭にかまど小屋を建て薪でご飯を炊く練習をしたのも、地域の方と一緒に年末に餅つきをし続けるのも、突然起こる大災害に何も備えていないことの不安が原点である。カヤック、DIY、家庭菜園、アウトドアなども、何かあった時に困らないために震災後から始めた趣味である。災害時の対策とは地域の一定数がそれに備えていることが重要だと思っている。思い返すとこれらの準備は私の親世代では当たり前にできていたことばかりである。
社会が便利になり過ぎて災害時への備えが疎かになっている気がする。住む町の環境に合わせて大勢で上機嫌に過ごす工夫が地域の防災力につながるだろう。
おかげで特別な趣味も持たない仕事人間だった私だが、中之作に住み始めてから日々健康になっているようである。