
清航館通信 2020年6月号 「DIY型賃貸借契約の可能性」
今年(2020年)3月から本格的に始まった空き家調査ですが、近隣の方などの協力で空き家所有者と連絡を取るところまで進んでいる物件もあります。建物の損傷具合いや設備機器の状況などを確認し、空き家になった経緯と今後の使い方について聞き取りをしています。中には掘り出し物といえる建物もありますが、年配の所有者は相続する方に負の遺産となることを心配し、建物を解体して処分する方法を検討している場合が多いです。
私たちは、港町の風景を保存して次の世代が豊かに暮らせる地域づくりを目指して活動していますので、使われていない古い建物の活用方法を検討してほしいのですが、改修費用や入居者が起こす問題行為などに対する不安が大きく、なかなかいい返事をいただけないのが現実です。一般的な賃貸物件は所有者がきれいに整備して貸し出し、入居者は退去時に建物を原状回復してから返却する義務があります。そのルールに従うと所有者には初期投資が発生するので、入居者が見つからない場合などのリスクを想定すると空き家活用を慎重になるのも当然です。
そこで入居者がリフォームする【DIY型賃貸借契約】を紹介します。理想の暮らしにこだわりが強い方にとってアパートなどの賃貸住宅は手を加えることのできない殺風景な白い箱でしかありません。しかし自分好みに改修できる物件は彼らにとって楽園で、少しぐらい古くても問題になりません。生活するために補修が必要な場合でも、相場より家賃を安くしてもらえるなら文句はありませんし、退去時の原状回復を免除すれば大喜びとなります。こうして自分好みの改修した建物には愛着が生まれますので長期入居が見込まれます。仮住まいという意識が薄れれば近隣住民との付き合いにも差ができるでしょう。家族にとって負の遺産だったはずの空き家を、入居者が買い取った事例もあります。
思い入れのある建物を全てを自由に改修されてしまうことが不安であれば、契約時に改修範囲や工事内容などの合意を得てから実施する契約方法もありますので安心してください。私は建築士ですので気軽に相談してください。
(この原稿は地域の回覧板に向けて2020年6月に書いたものです)