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移住の話③ 古民家の保存

東日本大震災の直前に古い建物に住む方から改修の相談を受けたことがあります。江戸時代に建てられたという海に面した商家は、あちこち劣化していますがとても立派で、修理すればまだまだ住み続けることができる建物でした。ボクが今住んでいる家との最初の出会いです。

改修方法について資料を整理し、改修案と概算工事費を作成中に大震災が発生しました。数日後に古民家を訪ねると、屋根瓦は崩れ落ち、津波により1階の窓は全て壊れ室内は無残な姿になっていました。近所の方から古民家に住んでいた方は家族の家に避難して無事であることを聞き胸を撫でおろしました。

冷静にあたりを見回すと別の地域の壊滅的な津波被害とは何かが違うのです。この町の建物は1件も流されておらず、被害は受けているもの町の風景は以前と変わらないでそこにあったのです。こんな奇跡のような場所があることに驚き、この場所から震災復興が始まるだろうと呑気な想像をしていました。

建築士ですので震災後はしばらく「応急危険度判定」や「被災住宅の相談」などに対応していました。その間に国は3月25日に震災で公費解体を行う方針を示し、5月2日に実施要項を作り、市町村はそれに基づき案内を始めました。

無償解体の案内だけが異常に早かったことを覚えていますが、それ以外の対策が何も出そろっていないので「解体するなら無料ですが、改修するのは有償です」と受け取る被災者も多く、近所が解体の届けを出したから自分も届を出したという方もいました。明らかに選択肢が少なすぎる制度運営だったと言えます。

建築士の活動に一区切りがついた7月に港町を訪ねると、江戸時代の古民家にも解体申請済みの張り紙がしてありました。建物の文化的価値などについて全く検討することなく書面だけで申請を受理していたのです。改修可能だと思って先送りしていた建物に解体の危機が迫っていたことに驚き、市役所の窓口に出向き保存可能な建物で所有者と協議中だから解体を待ってほしいとお願いしました。すぐ近くの建物の解体工事が始まっていましたので、本当にギリギリでした。(無償解体により市内の文化財やそれに近い歴史ある建物の多くが無くなっています)

写真は2014年2月に建物の修復を終えたときのものです。

参考資料
速水清孝著「東日本大震災に伴う福島県の築物の公費解体と修理補助について」 2014年 建築学会技術報告集より


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