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片想いのmusic(第3話)


16 ライブへ向かう男

「げっ!もうこんな時間だ!悪りぃ!もう行くわ!」

「やきそば」と書かれた屋台から、お世辞にも似合うとは言えないエプロンをかけた男が出てくる。
昨日美容院に行ったのではないか、というくらいに美しく整った茶メッシュで立ち上がる短髪。
「ありがとな!おまえのおかげで売れたよ!」
男が出てきた屋台から声が返ってくる。屋台の前にはまだ列がある。
ライブは体育館で行われる。今は他のバンドが演奏をしているところだ。

裏口へ向かう健吾の視界に、美しい女性が入った。
「あら、ずいぶんセンスに溢れる衣装着てるわね。」
「は?やべっ!」
慌ててエプロンをはずしにかかる。

ったく、なんでこんなダサいのなんだよ。センスがねぇなぁ!しかもこんな女に気付かれるとは…!

「あら、なんだ。てっきりステージ衣装かと思ったわ。良かったぁ、そんなのおソロで…」

るせぇなぁ!この女ぁ!!

「ほら、そんなにらんでないで、行くわよ。もう時間ないんだから。」
「わぁってるよ!」

ようやくエプロンをはずした健吾、足早に歩く美沙子を追う。

「おまえ完璧なんだろうな?」
「何が?」
「新曲。」
「当たり前じゃない。あたしを誰だと思って?あたしは…」
「はいはい。」

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