同じ「言語化」でも色々ありますね。
この記事について
こんにちは、平塚です。この記事は、武蔵野美術大学大学院造形構想研究科修士課程造形構想専攻クリエイティブリーダーシップコース(以下「本研究科」といいます。)の科目である「クリエイティブリーダーシップ特論」(以下「CL特論」といいます。)における令和3年10月4日(月)に開催された第13回のエッセイです。最前線でご活躍される方の連続講演イベント第13回のスピーカーは博報堂新規事業開発部門「ミライの事業室」室長である吉澤到様です。ビジョン策定のお仕事が多かったとのことです。
講演内容について
博報堂の説明も行いつつ、5つのセクションでお話しくださいました。すなわち、(1) コピーライターから段々と経営に興味を持った話、(2) ロンドンビジネススクールに留学した時の話、(3) 日本に戻ってきて博報堂のイノベーションを推進した話、(4) ミライの事業室の話、(5) これからのリーダーシップの話の5つです。以下、恣意的に興味関心を持ったお話を取りあげます。
コピーライターは、広告のキャッチコピーを書くだけではなく、広告会社がやっている「ありとあらゆる言葉まわり」をやっているとのことでした。たとえば、キャッチコピー、新聞広告等のボディコピー、企業の価値を一言で表す企業ビジョン・スローガン、文章でストーリーテリングしていくステートメント、CM のナレーション、ラジオ CM、商品のネーミング、IR 向けの経営者のスピーチ原稿、新規サービスの PR リリース原稿などです。個人的には、コピーライターには社内試験があるとのことでしたが、東京コピーライターズクラブの新人賞をとってはじめて一人前のコピーライターとみなされるというところが面白いなと思いました。
コピーライティングについて、企業の価値やコンセプトを短いフレーズで表す点で経営に接近していくようです。現場の人たちはそうした表現を具体的な活動に翻訳していくとのことで、色々な解釈ができる言葉のほうが創意工夫を引き出しやすいようです。その点で、同じく言葉を扱う職業でも、文言の解釈の幅を狭めて一義的に意味内容を画定することに迫られる私のような職業とは正反対の発想ですね。前々職では私も CEO 室でその種の言語化もやっていなくはなかったのですが、企業全体から汲み取り企業全体に浸透させるのは難しいんですよね…
ビジネススクールの話については、経済学者やファイナンスの教授より心理学者が多いらしいです。経営的な重要性について、計数管理に加えて心理学の比重が大きく、最近ではさらに「哲学」(真善美や倫理観。たとえば、生活者の善)が重視される旨のお話がありました。また、広告産業においてはカルチャーが何よりも重要であり、それゆえに日本の広告代理店では同じ価値観を知るために腹を割って話し合うための飲み会というアプローチがとられるのだという理解は面白いなと思いました。スタープレイヤーによるひらめきではなく集合天才や打ち合わせという点で「共創」が重視されるらしく、博報堂の打ち合わせの 50% は雑談と言われるようです。創造性は専ら個人の問題だと考えていましたが、たとえば、価値観の同質性を担保できれば、人数分だけアイデアも集まりやすくなるということなのだろうと思います。
「クリエイティブ・リーダーシップ」については、スタンフォードのソーシャルイノベーションレビューを引用しつつ、みんなで価値をつくる、あるいはそういうシステムをつくる「システムリーダー」という考え方が提示されました。相互に影響しあっている複雑なシステム全体の変革、そこに関わる多くに人たちに「ジブンゴト」としてかかわってもらう場づくりが重要とのことで、効果を生めないリーダーは自分で変化を起こそうとするそうです。その背景について、次のようにご説明くださいました。
やはりですね、いま一番大きな変化というのが〔経済〕成長の限界というのが見えてきたことだと思います。今までだと、とにかく競争して新しい価値を獲得していくということで経営が行われていたんですけれども——「プラネタリーバウンダリー」というふうに言われたりしますけど——ある一定を超えてしまうと地球そのものが壊れてしまうという中で、人々の幸福とか健康とかそういったものは経済が成長しないと豊かになっていかないけれども、ある一定の範囲内でみんなが共生できるような繁栄の仕方を唱えている人がいて、そんな考え方が広がってきているなと思います。そのときに成長の考え方も変わってきて、相手の領地を奪うというか市場を広げていく、独占にしていくという価値の獲得ではなくて、協力とか相互依存によって価値を創造していくことが非常に大事です。
(執筆者:平塚翔太/本研究科 M1)