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祖母と秋の風
祖母のことを思い出す。
彼女は秋が好きだと言っていた。夏の暑さがひいて、涼しい風が吹く。すると、心地が良いのだと言っていた。
私は夏が好きな子どもだったから、今一つ彼女に共感できなかったのだけれど、いまになってふと、あぁ、涼しいのも気持ちが良いものだなと感じるようになった。
そうして、祖母を思いだし、もう言葉を交わせないことを思う。
生きてる間にたくさん話せ、なんて言うけれど、そこには日常があるのだ。つまりは、学校があり、会社があり、一人暮らしがあり、子どもがありと、その時々に放っておけない自分の人生というものがあったのだ。
だから、彼女との時間をつくるためにそのときでき得る最善のことをしたという意識はあるが、それでも、いま話せないことが寂しい。離れてしまったことを寂しく思うのだ。決して切り捨てた訳じゃない。けれど、自分の人生のためにあまり会えないところへ引っ越した、あの時間を思う。
きっと何度でも同じ選択をするだろう。だから、後悔とはちがう。それなのに、あぁ。時々こうして、涙ぐみつつ思い出す。
今日の風は、そんな風。
優しさと寂しさの記憶を織り混ぜた、心地の良い秋の風。