占ってもらった話 その2
ずいぶんと月日が経ってしまった。思いたっても腰が重くて仕方ない人生を送っている者である。
京都に行こうの軽さで占いに行った。かつて訪れてからもう十年以上経っていて、データも残って居ないと思っていたけれど、占い師さんは言った。「いちどデータが飛んでしまったんですけど、タフに生き残ったデータが残ってました!」我ながら妙なところで気合いが入っているものだ。
職場を放逐されかけていた私はそのことを相談した。私はずいぶん鈍感な方で、人に何をされてもそんなものかとスルーしがちなのだけれど、今回はさすがにおかしい事が重なっていた。大体が自分の所為になっていたり、陰口を流されていたり。どうも陰口を言いふらしている人が被害者のように振る舞っていたらしい。
メンタルを病んだと言われた。
「このコじゃなかったら辞めてるかも」
と言われたけれど、私がかつてメンタルを病んだときに言われたのは
「気のせいじゃない?」
私が私でなければぶら下がっていたかもしれないが、という言葉を飲み込みはしたが、私は言った。
「私のときは気のせいで、彼女の時はかわいそうって、私にいうんですか」
「あなたが(陰口の内容と)同じ事をされたらどう思う?」とも言われたが、私は陰口を流すような陰湿なことはしないので何の理解もできない。と思ったのが感想であった。良くも悪くも直情なのである。ほんとに損するタイプ。
そんなこんなで占い師さんのホロスコープは言って来た。
「おまえ、人間関係で苦労するぜ」
「会社勤め、向いてないぜ。体かメンタル崩すぜ」
そんな事言われたって、こう見えて安定が好きなんだけど。
「安定より流動を愛する女だろうが」
そうかなあ。
「どのみち、今ってお前めちゃくちゃ人間関係に苦労する時期だぜ。もし結婚してたら離婚してたかも」
まじかよ、まだ変な人と結婚してなくてよかったな
「人間関係の悪さや波瀾万丈さを職場が全部引き受けてくれたんだとおもうぜ」
そう言われちゃむしろそんな職場が全部引き受けてくれてラッキーだったのかもしれん。
それでも私は環境が変わるのがとても苦手だった。出来ればしがみついていたかった。二桁働いているのでベテランでもあったのだし。――辞めた方がいいでしょうか?なんて一応聞いてみた。
そんな私の気持ちをあっさり見透かして、タロットは言った
「辞めろ辞めろって言っても結局辞めないんでしょ?」
タロットは本当に正しかった。タロットにそう言われたので辞めることを決意したといっても過言ではないかもしれない。
タロット占いに教えて貰ったというより、タロット占いが迷っている私の背中を力一杯蹴っ飛ばしてきたのだ。そんなことある?その先、崖下みたいに見えるんだけど。
占いって普通、何ていうか、導くとか、そういうやつじゃん。崖下に蹴り落として「ほらよ!辞めれたろ?」って言ってくるようなものではないと思ってた。
それがものすごい背中の蹴り方をしてきた。そんな事いわれて辞めないほど女は廃ってないのだ。と――私の性格をよくわかっているタロットだった。
かくして私は思いっきり仕事を辞めた。辞めます、を言う前に他の会社の面接に行ってうっかり再就職も決めてきた。辞める時期を二転三転させられ、ボーナスも退職金ももらえなかった。同僚たちにお礼すら言わせてもらえないかもしれなかった。泣き落としてお礼だけは言わせてもらったけれど。
お馬鹿な辞め方をしたものだけれど、これは結局自分の決めたことなので仕方がないのだった。
タロット占いを信じているとか信じてないとかいう話題に対して私はどうも答えられなくなってしまったけれど、間違いなく背中を蹴り飛ばしてくれる力はあるのだと思う。蹴り飛ばし方がすごかったけど。
かくして私は大の苦手な環境の変化に踏み入ることになったのである。なお、結局またお前に向いてない会社勤めだぜ。