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音楽制作の為のモニタースピーカーについて

先日とある友人から「DTM用のモニタースピーカーは何を買えばよいか?」
という相談を受けました。
最近では様々なメーカーから沢山のモニタースピーカーが販売されていますし、価格帯も、物質的な大きさも、選択肢が多く購入に迷ってしまっていたのだと思います。
そこで、こちらのnoteにも私の知識の1部を少し書きとめておこうと思います。

私の使っているモニタースピーカー

かれこれ30年近く前から手放せずメインで使っているスピーカーがあります。近年ではもう時代遅れ感が強いかも知れませんが
YAMAHAの「NS-10M」というスピーカーを未だに好んで使っています。
正確には、モデル末期の「NS-10MX」という防磁型のモデルです。
現在の感覚からすると、個人でDTMを楽しむにはサイズも大きく、
高さが38cmもあり、別途パワーアンプも必要で、しかも生産終了しているスピーカーです。
他にもスピーカーはいくつか所有していますし、優れたスピーカーは他に沢山ある事も知っていますが…やはりメインはこの「NS-10MX」から他のスピーカーに乗り換え出来ず…今に至っています。

なぜ?時代遅れのモニタースピーカーをメインで使っている?

1番の理由は…シンプルに「この音に慣れているから」なのですが
それ以外にも私的にメリットがいくつかあるのでご紹介します。

ヴォーカルが「リアルサイズ」で聴こえる

近年流行りのコンパクトなサイズのモニタースピーカーはバスレフ方式を採用している物や、パッシブラジエーターを搭載して低音域を補完している製品など優れた物も多いです。
数値的な周波数特性を見ればしっかりと低い音まで再生されていますし、解像度の高いモニターライクなサウンドが好印象の物も多いです。
しかし音楽を鳴らした時に広がる「音像」のサイズ感が、どうしてもコンパクトに聴こえてしまう機種が多く、DTMでミックス作業をする時の基準となる音像を測りにくいのです。

NS-10Mシリーズは宅録やDTMで使うにはスピーカーサイズが大きめですが、約7インチ相当のウーハーと、そこそこ面積のあるキャビネットサイズの恩恵で、ボリュームを合わせるとヴォーカリストがその場所で歌っているかの様な「サイズ感」で音楽を聴く事ができるのです。
リアルサイズのボーカルを基準とする事で、他の楽器隊の重量感や上物の抜け感のバランスを決定する時にイメージしやすくミックスの迷いが少なくなるというメリットがあります。

特に歌モノのミックスで音作りに困っている…という方は、今更NS-10M?…
なんて思わずに、1度使ってみるのも良いかも知れません。

余裕を持った原音再生

NS-10Mシリーズは低音域が出ない事で有名です。
正直、現代のミックスでは物足りないどころか…NS-10Mだけでは
流行りのミックスを行うこと自体無理!と言っても差し支えないかも知れません。

しかし、物理的な観点から見れば、1つのスピーカーユニットに広範囲の周波数を入力すると「歪み」が発生しやすくピュアな音像を保てなくなるというデメリットが出てきます。
小型で比較的、周波数レンジの狭いモニタースピーカーであってもスピーカーは2ウェイの機種(ウーハーとツイーターのスピーカーが2つ付いてるモデル)が圧倒的に多いのですが、これは周波数レンジを各スピーカーに分担させる事で不要な「歪み」を排除させる為に効果的な設計だからです。

しかし1つのエンクロージャーの中に2つのスピーカーを搭載する事はメリットばかりではありません。一般的に2ウェイの場合ウーハーが中低域、ツイーターが高音域を担当します。
この2つのスピーカーが担当する音域はどうしても重なる部分が出てきてしまうので、位相が発生して、音を濁らせたり、打ち消しあったり…不具合をもたらします。
そこでクロスオーバー周波数を設定し電気的に音域が重なる部分をカットするフィルターの様な回路をスピーカーの中に入れて対応します。
このクロスオーバーの設計が甘いと低音域と高音域を跨ぐ時に音の繋がりが悪く聴こえてしまう場合も出てくる為、よりフラットな周波数特性が必要とされるモニタースピーカーでは繊細な設計が必要とされる事になります。

NS-10M の設計は余裕のあるウーハーサイズを搭載させて尚且つ、あえて低音域が出ない様に設計されていると言えるでしょう。
これは「歪み」を排除し、余裕を持って「ピュアな原音再生」を目指した設計の表れです。

最近流行のコンパクトサイズのモニタースピーカーから流れるサウンドは
ラウドで迫力がある様に聴こえるかも知れません。しかしそれは聴感上気にならない塩梅の「歪み」が発生している事で、スピーカーの特性を逆手に取ったマキシマイザーやエンハンサーの様な効果を疑似的に狙った迫力のある音作りがされているから…かも知れません。
自分が手掛けたミックスを他のスピーカーで聴いた時、迫力が足りなく聴こえてしまうという方は…ご自分が使っているスピーカーを1度疑ってみるのも良いかも知れません。

あえて低音域の出ない密閉型

NS-10Mの再生できる最低周波数は60Hzまでです。
実際には100Hzを下回ったあたりから、なだらかにロールオフしているので、最近のワイドレンジなスピーカーと比べるとより中音域に密集したサウンドに感じる事でしょう。
私はNS-10Mが再生できない低い周波数を補完させる為に、密閉型のサブウーハーを足して使っています。
これは私の持論なのですが、ミックスを行うには最低でも40Hzまで再生可能な環境が理想的だと考えています。
(私はバンド形態の生楽器を使った楽曲をミックスする事が殆どです、ジャンルが違えば必要とする音域も変わると思います)

エレキベースの4弦解放の周波数が約41Hzです。
ですので最低でも40Hzまで再生できなければ、エレキベースの基音のアタック成分やバスドラムの輪郭を判断する事が物理的に難しくなります。
楽曲で5弦ベースを使う方やシンセベースの低音域が必要な方は、もっと音域を広げて30Hzまで再生できる環境が必要かも知れません。

しかしながら日本の住宅事情を考えると常に40Hzや30Hzの様な低音域を鳴らし続ける事は現実的ではありません。
低い周波数はパワーが大きく透過しやすいので、家族に迷惑を掛けるどころか、ご近所に騒音トラブルを起こしてしまう可能性さえあります。
そういう部分も含めて100Hz辺りから低音域がロールオフしているNS-10Mとサブウーファーを組み合わせて、必要に応じてサブウーファー側をOFFに出来るシステムは私にとって理想的でもあります。

そして最近では選択肢が少なくなった密閉型のスピーカーですが
低音域を出し難い…というデメリットばかりではないのです。

近年ホームユース用のモニタースピーカーの多くはバスレフ型を採用している機種が圧倒的に多いと思います。バスレフ型は構造上小さめのエンクロージャーであっても密閉型と比べた場合、低音域の再生能力に優位性があります。
DTM用のモニタースピーカーを販売する上で詳細な性能を公表する事は
顧客から製品を信頼して貰う為にも必要な情報になるのだと思います。

サイズが大きいのに60Hzまでしか再生できないスピーカーは今の時代、売れないのです。そういう事情も含めサイズの小さいスピーカーはバスレフ型ばかりです。(最近ではパッシブラジエーター方式の物もありますが)

バスレフ型は、その構造上ウーハーで再生できない低音域をバスレフポートから再生します。バスレフポートから出てくる空気はスピーカーの裏側の振動を利用して出力しています。
これは逆相で、しかもエンクロージャー内部で反響した反射音です
例えるならばバスレフ型のスピーカーで低音域のミックスをする事は、
隣の部屋でどこかの壁に向かってしやべっている人と、その隣の部屋から会話を試みる様な感覚かと思います。

バスドラムやエレキベースの音作りをする時に「逆相の反射音」を聴きながら音を判断しなければいけないのです。
もちろん「音」には様々な周波数が含まれていますので、基音が「逆相の反射音」だったとしても、その倍音成分はちゃんとウーハーの直接音を聴けているので…基音も聴けているつもりになっているかも知れません。
楽曲のルート音は、その曲の骨格でもあります。
バスレフ型のスピーカーでミックスをしているとすれば「まやかしの低音」を頼りに曲を完成させている事になるのかも知れません。

結局のところ好きなスピーカーを使うべし

なんだかんだと半分冗談交じりにバスレフスピーカーを脅す様な事も書きましたが(笑)
そもそも楽曲制作やミックス作業自体に正解はありません。
ですのでモニタースピーカー選びにも正解がありません。
今回の記事では触れませんでしたが、ルームアコースティックやスピーカーの設置場所、最近流行のルーム音場補正など…もっと重要視すべき部分が沢山ありますので気が向いた時にでも、まったり記事にしようと思います。

こんな記事を最後まで読んで頂けた方がはたして何人いるか分かりませんが
誰かが読んでくれたなら…少なからずモニタースピーカーに興味がある方なのは確かだと思います。
クリエイティブな音楽制作の為にもご自分のテンションが上がる
モニタースピーカーに出逢えている事を願います。
そしてスピーカー選びに迷ってしまった時に…違う視点の知識として
少しでも誰かの役に立つ情報であったなら嬉しく思います。

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