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なりきりチャットに人生を捧げていた大人の思い出話18
さて、このシリーズはこれで終わり………のように思えるがもうちょっとだけ続く。
入院する少し前に登録した「現代異能もの」のサイトについてである。
なんとこのサイト、気付いた頃には閉鎖していた。
ラインハルトに別れを告げ、しばらくネットから離れた期間が1ヶ月くらいあり、その間の出来事だ。
原因はやはり、登録者人数が少なかったことのようだ。
サイトの跡地だけ残っており、掲示板には恋人のキャラクターから心配するメッセージがいくつか届いていた。
ダメ元でそれに返信をしたが、もう相手がサイトを見ることはなかったのか、返事はなかった。
せめて、個人のメールアドレスを聞いておけばよかったかもしれないがそれも後の祭だ。
しかし、この相手とはその後すれ違いをすることになる。
当時、なりきりチャットのサイトが爆発的に増えると同時に、便利なサポートサイトも数多く存在した。
画期的だったのが、閉鎖してしまったサイトで会えなくなってしまった人ともう一度連絡をとる手段を作ってくれるサイトである。
そこでは個人の私書箱を設置することが可能で、会えなくなってしまった人に呼びかけるとメッセージが届く仕組みだ。
驚いたことに、そこで「現代異能もの」のサイトで恋人だったキャラクターが私に呼びかけているのを発見した。
すぐに連絡を取ったのだが、なんとそのサイトも
閉鎖してしまった!
なりきりチャットが爆発的に流行った結果、もはやその数は飽和状態になっており、新しいサイトが1つ増えると、古いサイトが1つ消える。
そんな時代に突入していたのだった。
1年後、私はまた別のなりきりチャットサイトに「現代異能もの」で使っていたキャラクターを登録をしていた。
1年前に暫くネットを離れたほどに落ち込んだが、暫く経つとまたなりきりチャットを始めてしまっている。
もはや病気といってもいいだろうが、どうしてもやめることができなかった。
そのサイトは今までいたサイトとは比べ物にならないほど登録者数が多く、登録しているキャラクターの3分の1くらいの人としか交流が持てなかったように思う。
そんな中で、あろうことか再び「現代異能もの」で恋人だったキャラクターと再会したのである。
相手も自分も多少キャラクター設定を変えていたが、言葉運びや言い回しですぐに気づくことができた。
名前を櫻井遥と言った。
このサイトは以前いたサイトと同じく「現代異能もの」で、大きな特徴として異能の力があればあるほど身分が高く、異能の力が低い者は身分が低く、迫害されていた。
私は異能の力が低いキャラクターを演じており、異能の力が高い、緒方真人というキャラクターに服従していた。
この服従制度がサイトの最大の特徴であり魅力で、人気の理由でもあった。
能力の低い者から服従する相手は選べない。
能力の高い者が、気に入った能力の低い者を服従させていくのだ。
相手から服従させられたといえど主人、緒方真人との関係は良好だった。
そんな折、以前のサイトで付き合っていた櫻井遥とも再会し、再び良い関係になりつつある。
このちょっとした三角関係は面白いな、と思っていた。
緒方真人はコミュニケーション能力の高い人で、サイトに登録したばかりの私に色んな人を紹介してくれた。
大勢のプレイヤーが登録するサイトで分け隔てなく交流が持てたのも、緒方のお陰だ。
再会した櫻井遥とは再び付き合うことになったが、ラインハルトの時は違い、四六時中一緒にいるようなベッタリとした関係ではない、付かず離れずの良い関係が築けた。
しかし、別れの時は訪れる。
そう、当時どこのサイトでも問題になっていた「閉鎖」。
「サイトが閉鎖する」とお知らせがあったのは私が登録してから1年経った時のことだった。
人気のあったサイトがどうして?と当時は思ったのものだが、あまりにも登録者数が多すぎると、個人で管理をするのにも限界がくるのかもしれない。
櫻井遥とはプレイヤー同士の交流はなかったが、この時だけ今後についてどうするかというメールを送った。
再会できて嬉しかったという、自分の素直な気持ちも添えて。
話し合いの結果、このまま二人の関係を終わらせるのは勿体無いし、似たようなサイトに二人で登録しようということになった。
そして、サイトが終わる日。
世界の終わりの日だ。
緒方のプレイヤーにも今後どうするのか尋ねたが、サイトの閉鎖と共に引退すると言っていた。
寂しいけど、お別れだ。
最後の最後に、緒方からメールが届いた。
「本当は君のことが好きだった」と。
やっぱりそうだったのか、という気持ちと、攻である相手が攻の自分をどうして?という気持ちがないまぜになる。
でも、それをプレイヤー本人に訪ねるのは無粋というものだろう。
素直に相手の気持ちが嬉しかったので、ありがとうと返した。
そしてさようなら。
私にとっては一年、緒方はもっと長い時間を過ごしていただろう。
多くの人に愛されたサイトが終わりを告げた。
これで本当の「ハッピーエンド」だ。
もう書き残すことはないだろうか?
この長い物語を読んでくれてありがとう。
櫻井遥とのその後は、別のサイトに二人で登録し、暫く関係を築いていたがやがてそのサイトも閉鎖が決定し、それを折に関係を終わりにした。
関係の終わり、というよりは「なりきりチャット」事態のバブルが一時的に落ち着いたため、お互い離れることになったといってもいいだろう。
終わりに。
かれこれ20年も前の話で、今のなりきり事情とは全く異なった価値観での話かと思う。
今とは全然違う!と感じることも多々あるかもしれないが
「昔はこんなこともあったんだ」
くらいに思ってくれれば嬉しい。
また、サイトの雰囲気や周りの環境によって事情も大きく変わってくる。
20年前になりきりチャットをやっていた人でも、「これはないな」と感じることもあるかもしれない。
これもまた
「こんな世界もあったんだ」
くらいに思ってくれれば嬉しい。
バーチャル世界での恋愛は、薄っぺらなようでいて、奥が深い。
現実の肉体を捨て、別の自分になるからこそ相手に伝えられることもある。
アバターとは、いわば自分を写す鏡だ。
そこには夢、願望、思い出、趣味、性癖、自分が表現したいありとあらゆるものが詰まっている。
だからこそそれを表現しようとする者を愛しく感じるし、この世界を離れることができない。
20年経った私は今どうしているかというと。
プラットフォームを変えて、勿論なりきりをやっている。
「まだ」やっているのだ。
だからこれは
「なりきりチャットに人生を捧げていた大人の思い出話」
ではなく
「なりきりチャットに人生を捧げている大人の話」
だ。
全てのなりきり、RPを愛する者に幸あれ。
願わくば、最高のハッピーエンドがあなたにあらんことを。