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なりきりチャットに人生を捧げていた大人の思い出話7
色々あってレイカとは疎遠になった。
いのりさんは姿を消した。
私も、毎日のように通っていたチャットには顔を出さなくなった。
東雲とは時々連絡を取っていたけれど、彼女もなりきりはやめてしまったようだ。
18歳。
受験を終えてネットサーフィンをしていた時、ふと目に止まったサーチエンジン。
なりきりチャットのサイトを検索できるものだった。
色々あってしばらく離れていたものの、この遊びがどうしても気になって仕方なかった。
なりきりチャットは
Play By Chat(プレイバイチャット)
または
Play By Web(プレイバイウェブ)
通称PBC、や、PBW、という名前で呼ばれ、数多くのサイトが存在するようだった。
1年前までは、個人サイトの片隅にあるおまけコンテンツ程度にしかなりきりチャットは存在しなかったため、この普及の仕方には驚いたものだ。
版権もののなりきりは勿論、サイトの管理人が世界観を設定し、それに合ったオリジナルキャラクターを動かすなりきりも人気のようだった。
私はこのオリジナルキャラクターを作るなりきりに興味を持ち、試しにひとつのサイトに登録してみることにした。
どちらかというと、現代学園ものやSFよりも、ファンタジーの世界観が好きだったので、いかにも西洋ファンタジーといった設定のサイトを選んだ。
主役となるのは、とある王国の騎士や貴族たち。
騎士達が貴族や王族との身分違いの恋を楽しむ、というパターンがセオリーのようだった。
勿論BLものだ。
18歳以下は参加禁止の為、「エロいチャット」も頻繁に行われているのだろう。
サイトはパスワード制になっており、チャットに参加するには管理人に申請が必要だった。
これは以前いたサイトも同じだったので、すんなり受け入れられたのだが、驚いたのはパスワード申請前に「必読」と書いてあった規約の量だった。
とんでもない量の規則が存在し、守れないものはBANされる……ということだった。
あまりの量に細かくは覚えてないが、特に目を引いたものは
「行動描写は2行以上、3行以下にすること」
というものだった。
これは一体どういうことかというと、例を参考に書いてみよう。
例1:こんにちは(ニコッと微笑む)
なりきりチャットはキャラクターのセリフの後に、そのキャラクターがどのような仕草をしたのか、どのような行動をしたのか、をト書きで入れることが多い。
これを「行動描写」と呼ぶ。
上の例の場合チャットルームに表示される行動描写は1行に収まってしまうのでNGという訳だ。
ではどのようなものならOKなのか?
例2:こんにちは、今日はどうやら夕方から雨が降るようだけど……傘は持ってきた?(窓から顔を出し、校庭を走る運動部の生徒をちらりと見やる。空を覆う分厚い雲を見上げた後、花壇の側にいた貴方に話しかけ)
おそらくこれならば当時のチャットルームに表示される文章量は「2行以上、3行以下」だろう。
短すぎても、長すぎてもいけないということだ。
以前やっていたなりきりの行動描写はごく短いものだったので、果たしてついていけるだろうかという不安はあったが、もしかしたら文章力がつくかも……という期待もあった。
私はサイト規約を熟読し、作ったキャラクター設定と共に、管理人にパスワードを申請した。