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なりきりチャットに人生を捧げていた大人の思い出話9

「ラブストーリーは2人が結ばれて幸せになったらそれで終わりだけど、PBC(なりきりチャットのこと)はその後のお話も自分たちで作りあげていけるのが良いよね」

ラインハルト(のプレイヤー)が口癖のように言ってた言葉だ。
恋愛シュミレーションゲームは意中のキャラクターと結ばれたら「クリア」で「ハッピーエンド」だ。
PBCはキャラクターを動かしている人間がいる限り、その物語は続いてゆく。

ラインハルトとは、いのりさんの時とは比べものにならないほど長い時間を一緒に過ごした。
「一緒に」と言ってもあくまでオンライン上でだが……

ラインハルトとのその後のことを話す前に、サイトであった印象的な出来事を少し記述してゆきたい。

私と同じ「傭兵」設定のキャラクターでリカルドという人物がいた。
彼は戦闘狂ということで、チャットルームに入っては誰彼構わず戦闘を仕掛けていた。
なりきりチャットにおける戦闘の行動描写というものは、テンポ良い文章運びにしないとダレてしまう傾向があり、戦闘描写を表現できる人は「文章力のある人」と認識していた。

かくいう私は戦闘描写が苦手で、リカルドに戦闘を仕掛けられたらどうしよう、といつもドキドキしていた。
その反面、文章の上手な魅力的な人なので話してみたいという気持ちもあった。

私のいたサイトのチャットルームは、会話には入らず閲覧だけしていると閲覧人数が表示されるシステムで、リカルドが戦闘を始めると閲覧人数が二桁に及ぶこともあった。
それだけ注目されている人物ということだった。

そんな人気のリカルドだが、執拗に戦闘を仕掛ける相手がいた。
フリッツという同じ傭兵仲間で、彼らはしょっちゅう争っていたように思う。

「仲が悪い」

一見そう見える二人の関係だが、ここはBL推奨のなりきりチャット。
これはいわゆる「喧嘩ップル」というやつだ。(※喧嘩するほど仲がいいカップルのこと)
リカルドの戦闘描写についてゆけるフリッツを凄いと思いつつも、彼らの絡みを見るのは日々の楽しみになった。

ごくたまにだが、二人で何やら親密な話をしている時もあった。
そう、きちんと「カップル」としての会話も成立させていたのだった。

なりきりチャットでこのような関係になるのは当時、少し難しいことだったと思う。

「喧嘩ップル」

誰もが憧れる関係ではあるが、「誰彼構わず戦闘を仕掛けるキャラクター」は相手にマイナス印象を与えやすい。
「厄介なキャラクター」とか「あまり絡みたくないキャラクター」と認識されることの方が多いのだ。

しかし、リカルドの場合それを全く感じさせなかった。
私も念願叶って彼とは何回か戦闘ロールをしたが、戦闘前も後も、相手への気遣いやフォローを忘れず、マイナス印象を与えない言葉運びにとても感心したものだ。

ただ優しいだけの「攻」しか演じられない私にとって、リカルドのような「攻」は憧れの対象でもあった。

そんなリカルドとフリッツはサイトの名物カップルとなっていたが、ある日衝撃的な事実が発表される。
リカルドのリアルの事情が忙しくなり、なりチャを引退するらしいのだ。

しかし、フリッツとの関係にはけじめをつけたいということで、最後の描写をロールするために日時を指定してフリッツを呼び出した。
この描写をする前にフリッツとは事前に連絡を取っていたらしいが……彼らのとった選択は「一緒に消えること」だった。

リカルドは元々魔の呪いを受けたキャラクターという設定なのだが、最後にその呪いに飲まれ消え、フリッツも道連れにするという選択を取った。
こうして二人は文字通りサイトから「消えた」のだった。

今でいうところのメリーバッドエンドというやつだろうか。
悲恋に見えて、二人は永遠に一緒に居られるという、儚くも美しいエンディングに当時サイトに登録しているほぼ全ての人が涙したのではないかと思う。

彼らの存在は最初から最後まで「ひとつの物語」だった。
オリジナルキャラクターを使ったなりきりチャットの自由さに感動した、当時の出来事だった。

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